第4話

 話題は今度の領都での祭りの話になった。


「もうそんな季節か」


 エドワルドお父様が、楽しそうに言いながら赤ワインに口をつける。この身体になってからはアルコール類はまったく口にしていないが、ちょっと羨ましい。


「前に行ったのは、貴方がまだ領主の頃だったわよね」

「そういえば、イザークは帝国に留学してたが、パメラたちが休暇で王都の学園から戻ってきてたっけなぁ」

「そういえば、あの時は父上に仕事を押し付けられた記憶が……」

「あ!? あ、あははは! も、もう5、6年くらい前になるかなぁ?」


 その後にヘリオルド兄様に辺境伯を譲ると、夫婦そろって冒険者として旅立ったらしい。よっぽど、冒険がしたかったのか。それを止めないアリス母様も、冒険者気質というか。

 まだ若いのに仕事を任された(物は言いよう)ヘリオルド兄様が可哀想な気もしたが。


「いえいえ、へリオルド様に代わっていただいて、どれだけ助かったことか」


 その場にいたセバスチャンが、にっこりと笑って教えてくれた。

 書類仕事を溜めがちだったエドワルドお父様。当時は文官の部下たちが、かなり苦労してたらしい。うん、わかる気がする。


「ミーシャ、ここの祭りは初めてだろう? いっしょに見に行くか?」

「い、いいわね! 私も久しぶりに祭りを楽しみたいわ」


 エドワルドお父様とアリス母様が強引に話題を変えようとしているのがわかる。

 まぁ、そこは流してあげようか。


「実は、まだ迷っているんです」

「迷う?」

「商店会から、出店を出すなら申請してくれと言われたんだけど……どうしようかなって」

「何、なにか売るのか?」

「いや、うちみたいな薬屋じゃ、売る物ないし、どうしようかなぁと」

「無理に出店をやらなくてもいいのよ? 一緒に見て回るだけでも楽しいわ」

「そうですね、うちの商店会では2店舗くらいしか申請してないみたいですし。よその通りはわかんないですけど」


 ただお祭りを見て回るだけでも、楽しそうではある。


「祭りは確か3日間だったか?」


 エドワルドお父様がセバスチャンに確認する。


「はい。今月末の週末の3日間だったかと」

「ふむ、あと2週間後か」


 なるほど、逆にあと2週間しか準備期間がないのか。何か用意するにしても、あまり多くの物はできなさそう。

 

「う~ん、もう少し考えてみます」

「何かやるなら、手伝うわよ?」


 パメラ姉様が、興味津々で言ってくる。


「ダンジョンは?」

「……ちょっと、お休み」

「まぁ、ダンジョン大好きな貴女にしては珍しいわね」


 アリス母様の言葉に、ニコラス兄様がニヤニヤしだした。


「実はパメラってばさぁ」

「ニコラスッ! 余計なことは言わないっ!」

「……はぁ~い」


 なんだ、なんだ? 気になるじゃないか。


「ニコラス兄様、何々?」

「気になる? 気になるよね?」

「ニコラ~ッス!」

「あははは、パメラが恐いから、はやめとくよ」

「今だけじゃないわよっ」

「はいはーい」


 ……ニコラス兄様の顔つきを見たら、そのうち、わかるんだろうな、と思った。

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