第5話

 結局、うちの店でも、大通りから脇に入ったところに小さな出店を出すことになった。

 最初は「もし、何かやるんだったら〜」なんて、軽い感じで言ってたポンドさんだったのに、うちの商店会からもう少し参加しないといけない、とか言いだしたのだ。

 よっぽど、参加する店が少ないのか、と思ったから参加したのに、蓋を開けてみれば、大通りじゃなく、脇道。どうも、商店会以外にも、他領からも参加しているお店があったようなのだ。そんなの見越して、集めろよっ! と内心思ったのは言うまでもない。


 とりあえず、今回用意したのは3種類の商品だけ。

 まずは、のど飴。元々、薬屋の店頭でも売っている、うちの店の常連なら知っているやつだ。ハッカ・柑橘・ベリー味の3種類。ハッカ味はうちの店でも大人の男性が好んで買っていってくれるから外せない。おかげで常連さんがうちの店に気が付くと買っていってくれている。

 そして、飲み物は、ジュース……という名の、私お手製のポーション。味に拘ってたら、桃のような味が出来上がってしまったのだ。ただこのポーション、ちょっと味が濃い目。それを薄めたら桃ジュースみたいになった。薄くしたから当然、効能も薄い。ちょっと元気になった? と思う程度で誰も気付かないと思う(たぶん)。

 最後がアクセサリー。魔石付きのブレスレットだ。これが一番数が少ない。魔石といってもクズ石だ。普通なら冒険者ギルドに持ち込んでも、お金にならないくらい。貧乏性で溜め込んでいたのを使うことにしたのだ。いい魔石なら宝石と見まごうくらいだけど、正直、色はそんなに綺麗なものではない。それと太めの色付きの糸を使って、出店の店番をしながら作る予定なので、素材の在庫がなくなり次第終了だ。

 できたら初日で全部売り切って、残りの2日は祭りを見て歩きたい。そんな思惑もある。


「このハッカ飴くれるか」

「父ちゃん、あたしにもっ」

「どれだ」

「これ、この赤いのっ」

「ほんじゃ、それも」

「はーい」


 大通りから外れてるから、そんなに混まないけれど、こうしてぽつぽつと親子連れや、女の子のグループなんかがやってくる。多くは、人込みの多さに疲れた面々だ。そう、想像以上に、この祭りにやってくる人が多かったのだ。

 そんな中、見慣れた二人組の姿に、思わずニヤリとしてしまう。


「やっと見つけた」

「なんだ、こんな細いところでやってたの?」


 双子が冒険者の格好でやってきた。

 美形の二人ってだけで、十分、目立つ。チロチロと視線が向けられているのに、無頓着なのは、もう慣れなんだろうなぁ。

 ちょっとだけ遠い目になってしまった私なのであった。

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