第23話

 皆が皆、大口をあんぐりと開けて、呆然としている。

 それには当然、私も含まれる。


「……ミーシャ」

「うん。私もびっくり」


 さすがのイザーク兄様も呆然としている。

 何せ、目の前に、雪のトンネルがズドーンと伸びているのだもの。


「ちょっと、絶対、ミーシャでしょ!」

「ありがたいけど、ありがたいけどさ」


 双子も慌てて戻ってくる。

 ボブさんたち? 完全に固まってるよね。


「だってさぁ! もう、こんな寒いの嫌だったしっ!」


 しかし、トンネルを作っちゃうとは思ってもいなかったけど。


「……こりゃぁ、ミーシャちゃんの力なのけ?」


 ボブさんが何か呟いたみたいだけど、風の音でよく聞こえない。

 私たちはとりあえず、トンネルの中へと入る。雪でできているせいか、うっすらと明るい。


「……風がない分、だいぶ違うね。これなら、進みやすいけど、次への出口がわかんなくない?」


 やりきった感満載のミニチュアの水の精霊王様。私の言葉に、ぷーっと頬をふくらます。


『いちいち除雪する方が面倒じゃない。一応、このフロアは雪原みたいだし、真っすぐ進めば、突き当りまではいけるんだもの、いいじゃない』

「……なんじゃ、それは」


 ボブさんが、目をまんまるくして、私の肩を見つめている。どうやら、精霊王様、姿を見えるようにしたらしい。


「ボブ、水の精霊王様だ。失礼のないように」


 ニコラス兄様の声に、より一層、目を見開く。あんまり開きすぎて、落ちちゃうんじゃない?


「なんだと……?」


 声がかすれてる。


「精霊王様……?」

『おう、ボブとかいったか。私は水の精霊王。お前は土の精霊王の眷属の加護を持っているようだな』

「は、はひっ!」


 ……おお。

 精霊王様の言葉に、ピシ―ンっていう効果音が付きそうなくらいに、背筋を伸ばしているボブさん。ちょっと、笑える。


「ど、どういうことかねぇ?」


 ボブさんの後ろから、メアリーさんがオドオドしながら聞いてきた。


「うん、まぁ、なんだ。ミーシャは精霊王様たちの愛し子なのだよ」

「……イザーク殿、そりゃあ、真実かいの?」

『真実だとも。私だけではなく、火や風、土もだ』 

『呼んだか? 水のよ』


 現れたのは、ミニチュアの火の精霊王様。


『なんだ、随分と寒いところに来ているではないか! 美佐江、寒かろう! なぜ、私を呼ばない!』


 先ほど、水の精霊王様に暖かくしてもらってるのに、何やら重ね掛けしようとするので、思わず止める。


「……ミサエって、誰のことだべ」

「たぶん、ミーシャちゃんのことを言ってるんだろう? しかし、精霊王様ってのはぁ、あんなちんまいんか?」

「そもそも、本当に、精霊王様なんじゃろか」

『不敬だぞ、ボブとやら』

「ひっ!?」


 今度は土の精霊王様が、ボブさんたちの背後に本来の大きさで現れた。うん、豊満な身体は相変わらずだ。


「あ、貴女様は」

『土の精霊王よ。あれらは、美佐江を守るためにあの大きさでついているの。ねぇ、水と火よ』

『なんだ、土のも来たのか』

『あとは風が来たら全員ね』

『残念ながら風のは、仕事で出かけているようよ』


 私たち抜きで、精霊王様たちで会話が盛り上がり始める。


「ちょ、ちょっと! いつまでも、ここにいるのもなんだし、先に進まない? 話は歩きながらでさ」

『おお、そうだな』

「あ、そうだ。せっかくだし、火の精霊王様、双子とボブさんたちを、少し暖かくしてもらえませんか」

『美佐江の望みなら』


 ミニチュアの火の精霊王様が、小さな指をくるりんと回す。


「ああっ! 暖かい!」

「ありがとうございます!」

『おう』

「……なんか、すげぇもんさ、見てるだな」

「んだ……すげぇな」

「まぁ、まぁ」


 呆然としているボブさんたちの背中を押しながら、私たちはトンネルの中を歩き始めた。

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