第22話

 コークシスに入ってすぐに、ダンジョンのある町に向かう気満々だった皆だったけれど、私がごねたので、1日だけ休ませてもらえた。皆、体力バカだよね。

 それでも、次の日は朝からダンジョンに向かうって、本当に……もうっ!


「ソ、ソンデ、イ、イキナリ、コンナサムイトカ、キ、キイテナイヨッ」


 双子たちに連れてこられたのは、ダンジョンの入口から転移できる60階のセーフティーゾーン。そこから出たとたん、目の前は真っ白な世界。かなり雪が積もってる上に、風がびょーびょー言ってるんですけど。

 事前に、防寒ばっちりにってパメラ姉様から言われていたから、リンドベル領で準備はしたんだけど。もこもこのフード付きのコートに、ブーツももこもこのやつ。でも、所詮、こちらの世界基準だから、あちらのヒー〇テックみたいなのではない。

 念のためにと渡された、ブローチ型の防寒の魔道具。これも、思ったほどのパワーがないみたいで、首元くらいしか暖かくならない。魔道具~!


「ほ、ほんと、寒いねっ」

「前も、ここで断念したんだよね~」


 そう言いながら、双子は笑顔を浮かべてるし。


「なんだぁ、ミーシャちゃんはぁ、寒がりだなぁ」

「これぐれぇ、ダンジョンの極寒フロアじゃぁ、普通だぞぉ?」


 いや、知らないから! 行ったことないからっ!

 思わず、イザーク兄様は仲間よね? と見上げるけど……コイツも余裕かよっ!


「大丈夫だ、私がいるから」


 ニッコリ笑うけど、イザーク兄様がいようが、寒いものは寒いからっ!


『まったく、美佐江、怒りすぎよ?』

「精霊王様……」

『はい、これでどうかしら?』


 今日の護衛担当のミニチュアの水の精霊王様が、小さな指をくるりんと回すと、ふわんっと暖かい空気が私の周りを囲んでくれた。


「ありがとう~! いや、マジで寒すぎじゃない?」


 強い風の中で、私の喜びの声が聞こえたのは、そばにいたイザーク兄様くらいだろう。


「なんだ? もしかして精霊王様か?」

『イザーク、お前もやっておくか?』


 水の精霊王様がイザーク兄様にも姿が見えるようにしたようで、兄様が少しびっくりする。


「何を?」

『ほれ』

「……暖かい」

『ふむ。あやつらもやっとくか?』


 水の精霊王様が、すでに前を歩いている4人を指さす。


「あ、ん~、どうしようか」


 まだ、私の力、というか精霊王様の力について、小人族のボブさんたちには言っていない。だからこそ、ここまで色々と面倒な状況(転移して森の家で休むとか)を我慢してきた。

 この約1か月間、一緒に行動してきて、彼らへの信頼度はかなり上がっている。特に、ここ数日、目に見えて精霊たちが好んで二人の周りにいるのだ。もう、彼らに精霊王様たちのことを教えてもいいんじゃない? 私が聖女というのは置いといて。


「もういいんじゃないか?」


 イザーク兄様も、そう言って後押ししてくれる。


「おーい、ミーシャ、おいてくわよっ!」

「早く行こう、暗くなる前に、少しでも進みたいんだ!」


 雪で身体が真っ白になりつつある4人の姿に、まぁ、いいか、と思ってしまう。

 自分たちだけ、楽な環境でいるのって、心苦しいものね。


「お願いしていい? ついでに、除雪しながら進みたいんだけど、それも大丈夫?」

『美佐江のためだもの、かまわないわ』


 水の精霊王様は、にこりと笑うと指をくるりと回した。

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