第21話

 私たちは双子のポスターを見た町を出てから、帝国を半月かけて横断した。横に長い帝国で、この移動時間はかなり早い。普通、乗合馬車だったら、その3倍はかかっただろう、と、ボブさん夫婦に驚かれた。

 馬たちに魔法をかけ続けてくれた、精霊王様たちのおかげだ。


 その精霊王様たちのお怒りが、帝国を出ることになった頃、ようやっと鎮まった。

 帝国を見て回ることで、かなり多くの人々が苦労している姿をまざまざと見ることになった私が、何度も精霊王様たちにお願いし続けたのだ。


 ――貴族ではない者たちが苦しんでいる。彼らのためにも、もう許してあげては? と。


 実際には、精霊王様たちの帝国に対する怒りは、いまだに燻っている。

 なので、完全に元通りにはせず、帝国内にいる精霊たちに、自分たちが気に入っている場所や、人の力になるように指示をしたのだとか。

 精霊単体では、当然、力もさほどあるわけでもない。すぐにどうこうなるものではないだろうけれど、完全に力を引き上げられた状態よりは、だいぶマシなのではないだろうか。


『当然、精霊が気に入らない奴らの所は、今とたいして変わらんだろうがな』


 火の精霊王様が鼻を鳴らして、そう言った。確実に皇族の土地はアウトだろうな。

 その話をされたのは、コークシス王国に入ってから。もしかして、私の説得以上に、精霊王様たちも帝国内を見て思うところがあったのだろうか。


 それよりも、パメラ姉様のストーカーの話である。

 結局、私たちが立ち寄ったいくつかの町では、あのポスターは見かけなかったし、双子の武勇伝も聞かれなかった。

 もしかしたら、私たちが北側の街道に沿って移動したせいかもしれない。後からイザーク兄様が教えてくれたのだが、あの町は、ちょうど南側の街道とクロスするような場所にあったらしい。だから、あの話は南側の街道にある町では話題になっている可能性はあるが、パメラ姉様の耳に入らなければいい……のかもしれない?

 おかげで、パメラ姉様のご機嫌はあれ以上には悪くはならなかったのは、よかった。


「さーて、いよいよダンジョンよっ!」


 かなりのスピードで移動してきたにも関わらず、パメラ姉様は元気だ。

 帝国とコークシスの国境を越えたとたんに吠えるんだもの……若い女性としてはどうなのか。周囲の視線が痛いと感じるのは私だけ?


「んだなぁ、パメラさ、今から腕がなるだよぉ」

「んだんだ~」


 小人族のボブさん夫婦もノリノリだ。ニコラス兄様もイザーク兄様も、困ったような顔はしているものの、普通にこのままダンジョンに行きそうだけど。


「嫌よ! まずは、休ませてっ!」


 とりあえず、私一人だけが、かなりクタクタ状態なのであった。

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