第24話

 ボブさんたちは、私が『精霊王の愛し子』というので納得してくれた。それに『聖女』なんていうパワーワードを付け加える必要はなかった。『愛し子』ってだけで、十分だからね。

 でもこれで、何をやっても『精霊王様のお力で~』で誤魔化せる。

 今日は絶対、森の家に帰るぞ!


 そして、トンネルの中を順調に進めたのは、歩き始めて2時間位まで。


「……つまんない」


 パメラ姉様が、言いだした。


「なんで、魔物が出てこないのよっ!」


 精霊王様たちは、水の精霊王様以外はもうお帰りになっており、『聖女』である私のせい、というには、この60階では無理がある。

 なぜならば、私の浄化の力程度で寄せつけなくなるレベルの魔物は、このフロアにはあまり多くはないからだ。むしろ、とんでもレベルの魔物の方が多いはず(ニコラス兄様情報)。


『来るわけなかろう。私がトンネルを作ったのだぞ? 魔物などに気取られるわけもない』


 ふんっ、と鼻を鳴らすのは、水の精霊王様。


「えええっ!? そうなのー!?」


 パメラ姉様、うるさい。


「さっさと60階を攻略して先に進んだ方がいいじゃん」

「ミーシャ、それとこれとでは、話が違うっ!」


 どれとどれのことよ。


『なんだ、パメラは戦いたいのか』

「はいっ! 雪原の魔物になど、こういう機会でもなければ、出会うことはほとんどございません」

『ふむ』

「嫌よ、私は雪原の中を歩くのは。埋まっちゃうもの」

 

 ていうか、ボブさんたちなんて、完全に埋没しちゃうじゃないか。


「んだどもよぉ」

「ちーとばかし、飽きてきただなぁ」


 ……戦闘狂はパメラ姉様だけではなかった。


『それなら、これならどうだ』


 水の精霊王様が、再び小さな指をくるりんと回すと、トンネルの右側に穴がぽつんぽつんと、だいたい50m間隔くらいで開きだした。


『これなら戦いたい者だけ、外を歩けばよかろう。美佐江は暖かいトンネルの中を行けばいい』

「ありがとうございますっ!」


 パメラ姉様がそう叫んだかと思ったら、もう外に飛び出していった。外、すごい吹雪いてるんだけど。


「んだば、いくべか」

「はいさ」


 ボブさんたちもパメラ姉様の後を追っていく。あの深い雪の中を……もう、何も言うまい。


「はぁ……じゃあ、俺も行ってくるわ。イザーク兄さんは、ミーシャと一緒でしょ?」

「当然。気を付けて行けよ」

「はいはーい」


 彼らの後姿を見て、ほんと、彼らは冒険者なのねぇ、と、つくづく思った。



 のんびりと歩いている私たちをよそに、外では激しく戦闘している音が聞こえてくる。よっぽどのことがない限り、彼らのことだから大丈夫だろう。


「イザーク兄様、この辺で休憩しましょう」


 私の言葉に、すぐに反応したイザーク兄様は、背負っていたリュックから、金属製の台を出した。凍っている地面では焚火がなかなか点かないので、専用の金属製の台を用意していたのだ。

 私はアイテムボックスから、薪の束を取り出して、イザーク兄様に渡す。一応、人数分の折り畳み椅子を出して、パメラ姉様たちが戻ってきてもいいように準備をしておく。

 ヤカンに生活魔法で水をいれて、焚火にかける。


「……」

「……」


 私とイザーク兄様は無言で火を見つめる。

 なんとも、心地いい空間……と思ったのに。


「なかなか、強かったわねっ!」

「ひゃー、ありゃぁ、すげーなっ」


 賑やかな連中が、笑顔で血塗れで帰ってきましたよっと。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る