第25話

 トンネルの中をのんびり進む組と、雪原で魔物狩りに勤しむ組に別れて60階のフロアを進む。ここまで来れているのは、双子たちだけのようで、後続はほとんどいないらしい。

 それでも、さすがに初日でクリアできるはずもなく、暗くなってきたところで、森の家に転移した。

 精霊王様のことをバラしてからは、私の方も遠慮がなくなった。


「……なんじゃこりゃ」

「……たまげたなっす」


 家の前に転移した私たち。予想通りに、ボブさんたちは、固まっている。

 今回はボブさんたちがいるから、結界を張っている家の中に直接は転移しなかったのだ。

 一応、精霊王様の力、という体で、私が転移したんだけど。毎回、彼らに頼るのは、私の方も、申し訳ないし、たまには自分の力も使わないとね。


「結界がはってあるので、少し待っててください」


 先に家の敷地の中に入って、結界の魔道具をオフにする。

 家のドアを開けると、若干、埃っぽい気がしたので、すぐに『クリーン』の魔法をかける。


「どうぞー」


 私の声と同時に、家の中に入ってくる面々。双子とイザーク兄様は勝手知ったるという感じだけれど、ボブさんたちは、玄関ホールの中を見回しつつ、ほへー、とか、おんやまぁ、とか言いながら入ってきた。

 身内以外をこの家に泊めるのは、初めてだ。そもそも、この家に泊まりに来たことがあるのは、双子とイザーク兄様くらいだし。ちょっとだけ、新鮮な感じがした。



 翌日、しっかりと休んだ私たちは、再び60階の雪原に戻る。

 いつになくハイテンションの双子たちの快進撃は止まらない。


「なるほどなぁ。だから、ミーシャちゃんば、連れてく言ってたんだなぁ」

「こんただ、身体が楽になるならぁ、ぜひにともなるわなぁ」


 ボブさんたちも、元気ハツラツ。

 私は「あははは」と笑って誤魔化しながら、イザーク兄様とのんびり歩いていく。トンネルは昨日のがそのまま残ってたので、行きつくところまで歩くのみだ。


『水のも、なかなかやるねぇ』


 今日は風の精霊王様が当番の模様。私たちの身体の周辺は暖かい風に包まれているので、今日も寒さ対策はバッチリだ。

 マッピングでこのフロアの出口も確認済み。トンネルの出口から東に少しずれたところにありそうだ。


「パメラ姉様たち、もうちょっとで出口の階段になりますから、ほどほどにお願いしまーす」


 猛吹雪の中で嬉々として、スノーファングたちと戦う4人に呆れる私。イザーク兄様も、行ってくればいいのに、私から離れない。


「行かないの?」

「うん、ミーシャのそばでいい」


 ニコニコ笑いながら、そう言って一緒に歩くイザーク兄様。ブレないなぁ。


「まぁ、いいけど」


 双子たちを残して、どんどん進む。

 そして、トンネル先端に到着してそこから抜けると、トンネル自体がサラサラっと一気に崩れ去った。


        *   *   *   *   *


 ここのダンジョン、双子たちが先頭を進んでいたのは事実であるが、双子たちがリンドベルに戻っている間に、実は他の冒険者パーティも追いかけていた。

 ちょうどミーシャたちがもうすぐトンネルの先に到着するか、という時、別の冒険者パーティが60階のフロアに到達していた。


「なんじゃ、こりゃ」


 目の前にあるトンネルに、冒険者たちは、驚きであんぐりと口を開ける。


「おい、中はあったけぇぞ」

「やだ、本当だわ」

「ラッキー! よし、この中を進んでいこうぜ!」


 そう言って、トンネルの中を歩き出す彼ら。

 しかし、運は彼らの味方をしなかった。


 ……トンネルがサラサラと崩れ去ったのだ。


「なんだよ、これっ!」

「ちょっと、寒いんですけどっ!」

「こ、この寒さじゃ、途中で死ぬぞっ」

「ち、ちくしょー!」


 彼らの叫びは、当然、ミーシャたちには届かない。

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