第26話

 精霊王様の力を使うのは、この世の冒険者に限らず、生きている人々からしたら、ズルいと感じることだろう。それぐらいハチャメチャだ。

 あの雪原のフロアの60階以降、砂漠や火山、海、空中城、普通の冒険者パーティじゃクリアは無理でしょ、ていう馬鹿みたいなフロアが連続していたのに、難なくクリアしていく私たち。苦労しないでクリアして面白い? と、私なんかは思うんだけど。

 ……そもそも、クリア無理でしょ、っていうフロアだから、いいのか?


「いやぁ、思ったより早くにクリアしたわね!」


 血まみれで晴れやかな顔で言うのは、パメラ姉様。

 その彼女の足に踏みつけられているのが、このダンジョンの主らしい、3階建てのマンションくらいある、バカデカい黒いドラゴン。


 皆に寄ってたかって攻撃されていたせいで、ボロボロだ。普通は、ドラゴンの鱗や爪なんかが、素材として売り買いされるために、できるだけ傷つかないように狩るのだけれど、ここはダンジョンだからと、まぁ、際限なく攻撃しまくってたよね(私は大人しく隅っこで、結界の中で見てただけ。時々、遠距離で皆の怪我を治してたけど)。

 ドラゴンの尻尾の方から、身体が消え始めたので、パメラ姉様が飛び降りた。

 他の魔物たちも、身体が消え始めるとキラキラっと何かが浮かんでいったけれど、これほど大きなモノともなると、そのキラキラの量も半端ない。


「おお、これは凄いね」

「……赤ん坊の身体ぐれぇ、あんでねぇか?」


 現れたドラゴンの魔石は、黒いドラゴンとは正反対に、水晶のように白く半透明だった。それを、ボブさんが抱きかかえる。いや、赤ん坊サイズより、大きくない?

 私たちはそんな魔石をしまうと、奥にあった豪奢なドアに向かう。

 ドアを開けると、中には大きな宝箱と大理石のような白くて丸い石がそれぞれ別の台に置かれている。


「たぶん、あの白い石がダンジョンコアだね」

「ええ。当然、これは、そのまま残すとして、到達した証を残しておかないと。ニコラスで登録でいいわよね」

「登録?」


 他のダンジョンに付き合わされた時は、すでに双子たちはクリア済みのところばかりだったからか、その登録なんていうのを見たことがない。


「そうよ。ダンジョンをクリアした証明って、このダンジョンコアを持ち出すか、このコアに触れて到達者として登録するかの二択になるの」

「コアを持ちだしたら、当然、このダンジョンは消えてなくなる。今も中で最下層を目指している冒険者たちがいるのだから、その選択肢はない」

「それで、登録したらどうなるの?」

「ダンジョンの入口の石に、名前が刻まれるんだよ」

「へぇ!?」


 そんなの気にして見たことはなかった!

 そもそも、そんな石ってあった?


「ここは、まだ達成者がいなかったから、石は出ていないだろうけど、ニコラスが登録したと同時に石が現れるはずよ」


 そんな仕組みになってたとは。


「さぁ、さっさと登録して、お宝もらって帰りましょ!」


 血まみれ状態でいい笑顔でいうパメラ姉様を見る。思わずため息をつきながら、こっそり『クリーン』の魔法を使ってあげた。

 私は、あの姿でもいいっていう男の人は、いつか現れるんだろうか、とちょっとだけ(そう、ほんのちょっとだけ)思ったのだった。

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