第19話
荒れた帝国の地を3頭の馬が駆け抜けていく。
パメラ姉様にはメアリーさん。ニコラス兄様にはボブさん。
「ミーシャ、疲れないか」
「大丈夫」
はい。私はイザーク兄様に抱えられております。
テッセン王国の国境を越えた翌日の昼頃。ようやく村の影を見たかと思ったら、ゴーストタウンになっていた。さすがに、こんな場所で落ち着いて休めるわけもなく、そのまま街道を走っていく私たち。
ボブさんたちがいなければ、素直に転移して森の家で休むんだけど。
双子たちが貴族だっていうのは、領都にいるうちにバレたらしい。まぁ、そりゃ、有名な双子だから、あちこちからそんな話を聞くことになっただろう。それでも、普段の双子を知っているせいか、態度が変わることはなかった。
でも、それが帝国の衰退にまで関わってくるとは思っていなかったらしく、衛兵の話を聞いて、だいぶ驚いていた。
今日の護衛担当の風の精霊王様のお陰で、馬たちの走りが軽やか。日が傾いてきた頃、ようやく遠くに次の町の影が見えてきた。
「あそこで泊まれるといいんだけどっ!」
「そうだねっ」
双子がかなり本気で言い合っている。私も同感だ。
町が近くなったので、馬のペースを落とす。さすがに、ここには衛兵が立っていた。
「……身分証」
「はいはい」
疲れ果てたような顔の中年の衛兵に、ニコラス兄様から順にギルドカードを見せていく。それを見て、大きく目を見開き、一瞬固まる衛兵。そして、何度もカードと双子の顔を見比べている。
「……通っていいわよね?」
「はっ! は、はいっ! どうぞお通り下さいっ!」
そんなに驚くほどか? と、こっちのほうがびっくりする。Aランクの冒険者の数が多くはないといっても、そこまで? と思う。
「すまんが、宿屋はどこかな」
イザーク兄様が声をかけると、私たちのギルドカードには目もくれず、双子に目を向けたまま、「こ、このまま真っすぐ進めば、右側に宿屋の看板が見えてきます……」と呟くように答えた。
「……そんなに見とれるほどかね?」
「さぁ?」
私たちはクスクス笑いながら、町の中に入っていく。
前のゴーストタウンを見ているせいか、ここはまだ、人がいると感じる。それでも、みんなどこか虚ろな感じ。子供の姿も見えない。
現実を自分の目で見てしまうと、やはり胸が痛くなる。
「精霊王様、まじめに、そろそろ許してあげない?」
ぽそりと私の肩に座る風の精霊王様に呟く。イザーク兄様には見えていないはずだけれど、自然と私の肩へと視線が向く。
「……私は別に構わんけどね。特に怒っているのは、水と土だからねぇ」
「あう……」
精霊王様の中でも、女性陣の方が強いのか。
「……皇族とそれに関わる領地だけっていうのは?」
「そんな細かいことは無理だね」
「はぁ……」
そうは言ってもなぁ……と、重い気持ちになりながら、私たちは人気の少ない町の道を進んでいった。
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