第18話

 おじさんは頭を下げたまま、言葉を続ける。


「リンドベル家の方々には、感謝申し上げる」

「……あー、もしかして入国の時に、確認されたのか」


 それにしても、随分と連絡が早くないか。

 イザーク兄様に頭を上げるように言われ、固い表情のまま顔をあげるおじさん。


「はっ。我が国では、元皇太子への断罪も、『リンドベルの聖女』のおかげと、伝わっておりますので……リンドベル家の方々がいらしたら、すぐに国内の主要な場所には、連絡がいくようになっております」


 凄いね。情報網。確かに、元は辺境伯の領地。そんなに大きくはないのかもしれないけど、そんな端々に情報って行くの?

 それに、リンドベル家って、要注意な一族扱いになってない?

 ていうか、『リンドベルの聖女』なんて言われているとは知らなかった。なんか、恥ずかしすぎるんだけど。

 でも、今は薬屋モードのミーシャなので、聖女とは思われていないはずだ。


「今回のことで、まだ幼い姫様の輿入れがなくなりました。国民皆が、聖女様への感謝しております」


 なんと。

 婚約ではなく、輿入れ?

 いや、しかし、姫様の輿入れって、誰にだ? 皇帝? 元皇太子? 生まれたばかりの皇子?


「失礼ですが……それはどなたに嫁ぐという話で?」


 パメラ姉さまが、思わず、という感じに聞いた。


「はい。まだ12歳の姫様を、元皇太子の妾妃にと……本当に、本当に、よかった」


 その言葉に、皆で固まった。

 元皇太子、子供生まれたばっかだったよね?

 それも、12歳の女の子を? 妾妃?


「え、生まれた王子にではなく、元皇太子に?」


 思わず、聞いちゃうよね。

 年齢差があっても、そういうのやっちゃうヤツだったしね?(経験済み)


「はい」

「……人質ってことだろう」


 イザーク兄様の渋い声。

 なるほど。こうして独立してしまうくらい、元々、テッセン辺境伯には力があった、ということなのだろう。それを抑えるために娘を帝都に、という話だったのが、元皇太子の廃嫡で白紙になったというわけだ。


「……時期がよかったですね」

「はい。お隣のベリタス様のところは令嬢がいらっしゃらなかったので、そんな話にはならなかったようですが」


 どっちにしても、アレが復活しないことを祈るのみだな。


「帝国は、だいぶ荒れているようです。お気をつけて」


 衛兵のおじさんが深々と頭を下げると、いつの間にか、その背後に集まっていた若い兵士たちも同じように頭を下げた。


 ――たぶん、あのおじさん、ただの衛兵じゃないんだろうなぁ。


 あまりにも色々知りすぎている。

 きっと、直接伝えたかった、どっかのお偉いさんなのかもしれない。

 私たちはあえてそれ以上は聞かずに、帝国の方へと馬を進めた。


「……帝国側の衛兵さん、いなかったね」

「そんな余裕もないんじゃない?」


 ぽつりとそう言うと、ニコラス兄様が苦笑いしながら答えた。

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