おばちゃん、久々に旅に出る

第14話

 私は久しぶりに乗合馬車に乗っている。ガタガタと激しい振動は、慣れるものではない。


「ミ、ミーシャちゃん、だ、大丈夫け?」


 小さな声で心配そうに覗いてくるのは、小人族のメアリーさん。たぶん、かなり青い顔をしているんだと思う。なんとか、笑顔を浮かべて見せるけど、声を出して返事をする余裕はない。

 正直、ちょっと酔っている。念のために、と、自前で作った乗り物酔いの薬を飲んだのだけれど、それ以上に、揺れが酷い。これだったら、普通に馬に乗って行った方が、かなり楽だと思う。私は単独では乗れないけど。


「ミーシャ、抱えてやろうか」


 イザーク兄様が心配そうに声をかけてきた。普段なら大丈夫、と断るところなんだけれど、ちょっと無理っぽいので、素直にイザーク兄様の膝の上に乗らせてもらった。


「あと少しで休憩できるところに着くはずだよ」

「もうちょっと、我慢してね」


 向かい側に座る双子が声をかけてきた。

 領都の祭りが終わってしばらくして、双子たちから頼まれて、久しぶりに一緒に旅に出ることになった。

 彼らからの頼みというのは、当然、ダンジョン攻略だ。

 その話が出たのは、祭りが終わってすぐのことだった。


「コークシスのあのダンジョン、まだ未攻略だからさ、なんとか、私たちでやっつけちゃいたいじゃない?」

「一応、現時点での最高到達点は、僕たちなんだけどねぇ」


 私も一緒に入った、あのダンジョン。あの当時は確か、40階あたりで戻った記憶がある。なんでも、あれから60階までは行けたらしい。双子が20階近く進んだことにびっくりだ。ボブさんたちのような他の協力者がいたにしても、やっぱり凄い。

 しかし、そこから先が、かなりの難関らしい。

 魔物の強さばかりではなく、ダンジョン内の環境が……極寒なんだとか。今回は、色んな装備や道具を準備してはいるようで、やる気満々な双子。

 それでも万が一もあるから、私もできるだけの準備はした。特に、食料とか。


 そして、今回の攻略には、イザーク兄様も参加することになった。今までも、私が知らないうちに、小規模なダンジョンには行ったことがあったらしい。リンドベル領にはないけど、一応、レヴィエスタ王国にもあるらしいのだ。ただ、コークシスのダンジョンほどの数も大きなモノもなく、その攻略に双子が行くというので、イザーク兄様も参加したい、となったわけだ。


 ……でも私は知っている。


 あの祭りで『森の女王』のエスコートをして以来、街の女の人たちにすんごいアプローチされていることを。

 あえて、苗字を名乗らなかったので、普通の平民の冒険者だと思っている人が多かったらしく、冒険者ギルドに行くと、出待ちしている女の人がたくさんいるんだとか。それに、たまに他の冒険者と一緒に食事に行ったら、行ったで絡んでくる女の人も。

 だからといって、今更リンドベルの名前を名乗るのも、余計に面倒なことになりそうなので、放置しているらしい(リンドベル家のことを知っているのは、冒険者ギルドスタッフの一部のみなのだとか)。


 ……自業自得である。 


 その女の人たちの熱を冷ます意味もあって、しばらくリンドベル領から離れることにしたようだ。


 私は気持ち悪さを紛らわすために、深いため息とともに、イザーク兄様の胸に顔を埋める。使い古された革の鎧の匂いだけではなく、爽やかなグリーンノートの香り。冒険者といえば汗臭いイメージがあるのに、この爽やかな空間の不思議。一瞬、精霊王様、何かしてんじゃないの? と頭をよぎった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る