第13話

 日が落ちて、夜空に星がきらめきだしたころ、いよいよ『森の女王』のイベントが始まる。用意された舞台に、エントリーしていた女性たちが、続々と並ぶ。全員で12名。思った以上にエントリーしている子がいてびっくり。若いころに学園祭とかでやってたミスコンとかを思い出す。当時のアレは、なんか芸能界とか放送業界とかの登竜門的なやつだったけれど、ここではどうなんだろうか。

 ちなみに『森のお姫様』はこのイベントの前座という感じで、小さい女の子たちが舞台を歩いて手を振るだけで終わった。さすがにアレの中には加わりたくはない。うん。


 一人一人、名前を呼ばれては舞台の真ん中に立って、挨拶をする。中には歌を歌ったり、踊って見せたりと、なかなかバイタリティのある女性もいた。そして多くは、自分が勤めているところ(商会だったり、飲み屋だったり)の宣伝も兼ねていたりして、それに「〇〇ちゃん、今度、行くから相手してっ!」とか声があがったりして、ちょっと面白かった。

 最終的に選ばれたのは、領都内でも有名な飲み屋のお姉ちゃんだった。確かに、なかなか豊満なお胸をお持ちで、ぷぷっぴどゅー、とかいいそうなお色気むんむんである。たぶん、女性票は少なかっただろうなぁ。


「年々、品がなくなってきてるわねぇ……だいたいああいうのは組織票だったりするのよ」


 アリス母様の冷ややかな声に、思わず見上げる。


「ほら、舞台の周りに集まってるのって、お店の常連客なんでしょ。あれだけ集まれば、そんなに美人でなくたって、選ばれるわ」

「あ、あははは」


 その言葉に、あちらでのアイドルの人気投票を思い出す。あれはどっちかというとお金の力だったような気がしないでもないが、常連客に店側からなにがしかが出てたら、同じようなもんか。


「ほら、『森の女王』に選ばれた子、イザークがエスコートしてるわ」

「え」


 なぜにイザーク兄様が? と疑問に思いつつ、舞台へ目を向ける。イザーク兄様の顔が……だいぶ無理して笑みを貼りつけているのがわかる。

 隣のお姉ちゃんは、満面の笑みで、お胸をイザーク兄様の腕に寄せている。本来なら、男性としては役得のはずなんだけど、イザーク兄様は、かなりご機嫌はよろしくない。


「毎年、冒険者ギルドの大会で優勝した人が、『森の女王』をエスコートするって決まってるのよ。あの子、知らなかったのかしら……あ、私たちに気付いたみたい」


 アリス母様の言葉と同時に、私の視線がイザーク兄様とぶつかった。

 私はにっこり笑って手を振って見せると、イザーク兄様の顔が引きつったのがわかった。


「……馬鹿ねぇ」


 アリス母様が呆れたように何かを呟いたけれど、残念ながら私の耳には届かなかった。

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