第9話

 領都のお祭り、2日目。

 初日に品物をほぼほぼ売り切った私は、今日はイザーク兄様とともに、祭りで盛り上がる街の中を歩いている。昨日の店じまいのタイミングに様子を見に来たイザーク兄様に、約束させられたからだ。


「ミーシャ、こっちに」


 祭りの中日のせいか、昨日よりも混んでいるようで、イザーク兄様に手を握られ、連れまわされている。イザーク兄様も私の実年齢を知っているのに、見た目が見た目だからか、子供扱いされてしまう。


 ――私もそれなりに見た目は成長しているはずなんだけどなぁ。


 なんとなく微妙な気持ちにはなる。

 今回は、ちょっとだけ変装していたりする。なにせ、この街では薬屋としてそこそこ顔が知られているので、こんなイケメンを連れて歩いてたら、後々、誰かから何か言われる様子が、容易に想像できてしまうからだ。

 今日は普段着ている地味なワンピースとは違い、アリス母様が用意してくれた、貴族のご令嬢のお忍び用、ってな感じのワンピースを着ている。

 そして今日の護衛(?)担当の風の精霊王様に、髪の色はイザーク兄様と同じ茶髪、目の色は青に変えてもらった。顔がアジアンなのは、ご愛敬だ。辛うじて、年の離れた兄弟くらいには見える……かなぁ?(いや、無理だな)


「ミーシャ、あれも美味しそうだよ」

「あ、ほんとだ」


 イザーク兄様が楽し気に、指さした出店に目を向ける。

 昔見た、地元の祭りに出ていた屋台のケバブみたいだ。それよりも、もう少し大きめな肉を薄切りしていて、なかなかの迫力。あれは、何の肉なんだろう。大きさから言って……たぶん魔物の肉だろうな。けっこう人が並んでる。


「おや、あっちの焼きパンもいい匂いさせてるね」

「香ばしい、いい匂いね」


 肉の焼ける匂いに負けないくらい、甘くて香ばしい匂いをさせているのは、『焼きパン』。この匂いの感じは、焼きまんじゅうのアレだ。ケバブなんかよりも、懐かしい。うん、ちょっと、我慢できない。


「イザーク兄様、『焼きパン』食べましょう!」


 私は匂いの元を探しに、頑張って人込みをかき分けていくのに、イザーク兄様は、余裕で追いかけてくるから、小憎らしい。


「おじさんっ、焼きパン1個!」

「私にも、1つ頼む」

「あいよっ」


 目の前で焼かれていく『焼きパン』に目がくぎ付けになる。

 実際、見かけは焼きまんじゅうとは違う。細長いパンに茶色いタレがかかったものに串が刺さっている。文字通り、『焼きパン』なのだ。

 おじさんから焼きたてを貰い、フーフーッと冷ましてから、ハムッと『焼きパン』に食らいつく。食感は違えど、懐かしい味がする。思わず、「うまっ」と、声が出る。


 ――こんな風にお祭りに行くなんて、こっちに来てからは初めてだなぁ。


 今までも他の国のいくつかの街に行ったことはあったけれど、こんな風なお祭りにはいきあったことがなかったから、新鮮な気分だ。


「ミーシャ、あちらで大道芸をやっているようだぞ」

「え、何々?」


 まだ、『焼きパン』を食べきれてないのに、イザーク兄様の言葉で、慌てて視線を向けてしまう私なのであった。

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