第7話

 小人族のご夫婦は、ボブさんとメアリーさんというらしい。英語の教科書かよ! と内心、一人ツッコミしたのは、内緒だ。

 元々は隣の大陸に家があるらしく、基本はあちらでの活動がメインなのだとか。今回は観光も兼ねた、いわゆる出稼ぎに来ているのだとか。観光でダンジョンに入るとか、私には理解できないけど。

 双子とはコークシスで出会って、その場でパーティを組んでみて相性がよかったらしく、ここしばらく行動を共にしていたそうだ。その流れで領都にやってきたのだとか。今回は、双子とは別ルートでやってきて、領都でやっと合流したらしい。

 双子は戦闘種族とか言ってたけど、どうみてもおっとりした感じで、某映画に出ていた小人族そのものという感じなんだけど。凄い訛りが余計にそう感じさせる。


「おんやまぁ、こいつぁ、うめぇな」

「だな、これ、そないな値段でええんか?」


 小人の夫婦が目の前で、くぴくぴとジュースを飲んでいて、なぜだかほっこりしてしまう。


「いいです、いいです。どうせうちの庭で自然に生えてるのを使ってるんで」


 そうなのだ。森の家には、ちゃんと畑もあるにはあるけど、その他に自然と薬草類やら、果物の木が生えていて、それも高性能っていう……。特に、このポーションの味の元になっている桃が……たぶん、色々と駄目なモノなんだろうけど、味に拘ったら、これが一番で……。


「なぁなぁ、嬢ちゃん、このブレスレット、4本くれんか」

「4本?」

「ああ、うちの子らにも土産にしてぇだよ」

「わかりましたっ」


 メアリーさんが、4本の色違いのブレスレットを手に取っていた。

 なんでも、お子さんはもう大きいらしく、あちらの大陸ですでに働いているらしい。恋人がいるけど、まだ結婚にはいたってないので、やきもきしてるんだとか。

 そんなことを嬉しそうに話しているメアリーさんに、ボブさんもニコニコ顔だ。


「んだども、この街の祭りはぁ、ずいぶんとデカいのぉ」

「一応、ここは辺境と言われてるんだべぇ?」

「なぁ? おらたちの国で辺境なんていったらぁ、大型の魔物が多くてなぁ」

「んだぁ、こんなのんびりと祭りなんて、やってられる雰囲気なぞ、ないだよぉ」


 不思議そうに言う小人族の夫婦に、それだけこの街に安心していてもらえてるのかなと思うと、少しだけ、気分がよくなる。


「そいやぁ、パメラ、おめさんらの父ちゃんと母ちゃんに、オラたちは挨拶にいかなくて、本当にええんだか?」

「そだった、オラたちみたいなのと一緒じゃ、心配されてるんでねぇか?」


 エドワルドお父様たちに心配されるほど、小人族の夫婦が悪そうな人にも見えないけれど、双子は彼らの息子よりも若いらしいので、親心のようなものなのかもしれない。


「ん~? いいの、いいの。うちの親も冒険者だし、気にしなくてもいいわよ」

「ああ、ボブたちもせっかくの祭りなんだし、楽しんで来なよ」

「んだかぁ?」

「なんかあったら、言うだよ?」


 すっかり、小人族の夫婦の方が保護者だ。話の感じでは、双子の身分やこの領を治めている一族だというのも話していないようだ。彼らがそれを気にするかはわからないけれど、気を使わない関係でいたいのかもしれない。


「じゃ、またね、ミーシャ」

「お祭り、楽しんでね~!」


 4人はそれぞれにブレスレットを手に入れると、楽しそうに大通りの方へと戻っていった。


          *   *   *   *   *


 大通りを抜け、大きな飲み屋の前には、オープンテラスのようにテーブルがいくつか並べられ、すでに酔っぱらった者たちの姿もちらほら。

 双子たちも空いているテーブルに着くと、飲み物とつまみになるものを頼んだ。


「そいえばぁ、ニコラスぅ」

「うん?」

「あの嬢ちゃんは知り合いけ?」

「あ、言わなかったっけ? ミーシャは妹(……みたいなもの)」

「い、いもうとぉ!?」

「似てねぇな」

「うん、血は繋がってないからね」

「そうだかぁ……んだば、なんで、あがいなとこで店なんぞ」

「ああ、ミーシャはあの年で薬屋やってるんだ」

「なんと!?」


 双子と小人族の夫妻は、しばらくミーシャの話題で盛り上がったのは言うまでもない。


           + + + + + + + +


ちなみに、ボブとメアリーのホビットの夫婦は『ハルの異世界出戻り冒険譚 ~ちびっ子エルフ、獣人仲間と逃亡中~』https://kakuyomu.jp/works/1177354054904955348 

にも登場しています。

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