第33話

  ボブさんたちとは、そのままノドルドン商会で別れた。まだ、ボブさんたちの村の方に行く行商のための荷物が揃っていないらしい。その待ち時間の間、近場への護衛を頼みたいのだそうだ。

 みかけが小人族なので侮られて、逆に襲われるんじゃ、と思ったのだけど、メインはランクの低い若手の冒険者を使うから、と影護衛みたいなものを頼まれたらしい。確かに、あの戦闘狂の夫婦であれば、なんとでもできそうだもんなぁ(遠い目)。



 そして、私たちはそのまま冒険者ギルドに向かった。あの絵の上手だったおじいさんに会うために。


「おや、さすが港町。随分と賑やかだね」

「ほんとね、なかなかいい身体してるのが多いわね」


 ……パメラ姉様。一応、貴族のご令嬢なのに、そんなはしたないことを……と思ったけれど、言わない。もう、今更だから。そもそも、パメラ姉様の言葉に色っぽい意味合いはない。真面目に筋肉についての評価だから。

 私とイザーク兄様でとっととカウンターへと向かう。前は、あのおじいさんがいたカウンターが、中年の女性に変わっている。あの席がおじいさんの固定の席だったとは限らないものの、ちょっとだけ心配になる。

 チラリとイザーク兄様に目を向けると、小さく頷いて、その中年女性の所へと向かう。


「今、話をしても?」

「あ、はい」


 カウンターで何やら書類を書いていた中年女性が、顔をあげて固まった。イザーク兄様の万人受けする笑顔炸裂。しっかり被弾した彼女は、顔が真っ赤だ。


「以前、こちらにいた男性の受付をされてた方は、いらっしゃいますか?」


 イザーク兄様が丁寧に問いかけているのに、中年女性はまだ復活しない。


「あの、聞いてます?」

「はっ! あ、はい、あの、男性の受付ですか? えと、私は最近採用されたので、ちょっと、わ、わからないんですけど」

「どなたか、わかる方に聞いていただけますか?」

「は、はいっ! し、しばらくお待ちをっ!」


 バタバタと後ろの事務所のようなところに駆け込んでいく女性。パートみたいなもんかなぁ、なんてのんきに思いながら、ふと他の受付の女性たちへと目を向ける。

 カウンターで受付していた他の女性たちも、慌てている彼女の後姿を見て、何だろうと思ったのだろう。そのままの流れで、イザーク兄様へ視線を向けて……固まる。


 ――いや、そんな固まるほどか?


 相手をしていた冒険者たちに声をかけられて、すぐに戻ったみたいだけど。

 

「お待たせしました……で、男性の受付とはネイサンのことですかね」


 現れたのは、エドワルドお父様くらいの年齢の男性。かなり鍛えてますって感じの体格に、元冒険者なのかな、と予想する。


「ちょっとお名前までは覚えていないんですが……前に見かけた時は足を引きずっていた人なんですけど」

「だったらネイサンのことでしょうな」

「そのネイサンさんは、いらっしゃいますか」

「あいつなら、辞めましたよ」

「辞めた!? いつ!?」


 思わず声を上げたのは私。


「半年くらい前だったかなぁ。身体を壊してから、受付で燻ってたからね。ちょいとばかし強面で受付って面じゃなぁなかったが。なんでも、あの年になって何やらやりたいことができた、とか言って辞めてったよ」

「え、え、何か、何か預かってません?」


 ちょっと、私のお願いとか無視していなくなるとか、なくないっ!?


「うん? 何かお前さんたちに渡すようなものがあったのか?」

「ええ。こっちでお願いしてたのがあったんですけど」

「おい、お前ら、何か聞いてるか?」


 受付のお姉さんたちに声をかけるが、誰も何も知らない模様。

 マジか。あのジジイッ!


「あの、今はどこにいるか、わかります?」

「確か、マイアの飯屋に今はいるっていう話を聞いたが」

「ああ、俺もたまに会うぜ」


 たまたま隣の受付に並んでいた、筋肉ムキムキの冒険者が答えてくれた。


「わかった、ありがとう」


 私たちはさっさと冒険者ギルドから出ることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る