第34話

 少し雨脚が弱まった。そんな中、私はぷりぷりと怒りながら、町の中を歩き出す。


「まったく、どういうことよ」

「……ギルドで何かあったんじゃない?」


 私の後ろを歩いているパメラ姉様が、チラッと後方に目を向ける。


「なんかついてきてる」

「え。何、面倒なのは嫌よ」

「たぶん、ギルドにいたヤツらじゃないの」

「様子見て来いって感じだろう」


 行先は知られているのだから、気にせずに向かうしかない。ただついてきているだけなら、途中でどこかでコークシスにでも転移しちゃえばいいものね。

 久しぶりにこの町に来たのに、イザーク兄様は道を覚えていた。私一人じゃ確実に迷子になってたな……。


「いらっしゃい」


 店に入ってすぐ、おばあさんの無愛想な声が聞こえた。

 時間帯のせいか、あまりお客さんがいない。


「おや、あんたたちは」


 まさか、私たちのことを覚えているとは思わなかった。

 それに、随分と嬉しそうな顔。


「おじいさんが、こっちにいるって聞いたんだけど」

「久しぶりだね。ネイサンだね。今は上の部屋にいるよ」


 あっさり奥の階段を指さして教えてくれた。

 階段を上がってみると、ドアのない部屋でおじいさんがテーブルに向かっているのが見えた。


「なんだ、マイア」


 振り向きもせずに、何かを描いているようだ。


「おじいさん」

「あ?」


 私の声に、不機嫌そうな声で振り向いた。


「ちょっと、約束のモノって、できてるの?」

「お、おおおおっ!」


 慌てて立ち上がるおじいさん。


「待ってた! 待ってたぞっ!」


 いきなりテンション高めに声をあげると、テーブルの脇にあった大きな戸棚のドアを開けて、紙の束を取り出した。


「なかなか取りに来ないもんだから、心配してたんだぞ」

「それは……申し訳ないです」

「いやいや。でも、こっちも絵を描き上げたのは半年ぐらい前だ。ついでに言えば、説明を加えた状態になったのも1カ月くらい前だからな」


 ガハハハと、 豪快に笑うおじいさん。なんか、性格変わった?

 渡された紙の束をペラペラと見る。かなりの束になっていて、私の記憶にあるギルドの壁に描かれてた量よりも多い気がする。

 そして、やっぱり、上手い。色絵具も使っているのか、カラフルだ。説明書きもデザインっぽくなっていて、センスがある。

 というか、ギルドに貼られてたものよりも、よくないか?


「……紙もいいの使ってるんじゃ」

「これぐらい大したことじゃない」

「ちょっとお金かけすぎじゃ」

「いやいや、お嬢さんのおかげで、俺の人生はガラッと変わった。これぐらいじゃ足りないくらいだ」


 ニカリと笑ったおじいさん。


「そういえば、なんでギルド辞めちゃったんです?」


 私はおじいさんから受け取った紙の束を、後ろにいたニコラス兄様に渡す。双子が小さく声をあげたのが聞こえた。


「いやな、実は手足が治ったのは内緒にしてたんだ。そうなると色々と面倒になってきたんでな。それに集中して絵を描くのには、仕事をしてると時間が足りないしな」


 頭をガシガシっとかきながら、おじいさんがテーブルの上に置いてあった紙に手を伸ばす。そっちは、先ほどのものよりも紙質は劣るようだ。しかし、中身はギルドのものと同じか?


「それと、マイアがな」


 おじいさんが照れてる。

 まぁ、なんというか……お幸せそうで何よりだ。

 私も、つい、ニヨニヨと笑ってしまった。

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