第16話
休憩時間と言っても、あまり長い時間ではないので、私のアイテムボックスに入れてある大きなヤカンと、人数分のマグカップを取り出す。ヤカンの中身は、私の手作りのブレンドティーだ。森の家の庭で育てたバラの花びらを乾燥させたものが入っている。
「そういえば、帝都の方は、もうだいぶ落ち着いたって聞いたけど、兄さん、何か聞いてる?」
ニコラス兄様がマグカップにフーフーと息を吹きかけながら、問いかける。
「皇太子が廃嫡になって、皇帝の権力が復活したらしい」
「そういや、ちょっと前まで話題になってたのは皇太子だったっけ? 赤ん坊が生まれたとかなんとか」
「次々に隣国の小国を攻め滅ぼすのに陣頭指揮とってた、とか言われてたのも、皇太子じゃなかった?」
「そう、その皇太子が廃嫡になって離宮に軟禁状態になっているらしいって聞いたけど」
あのムカつく皇太子か、と思い出したら、思わず顔を顰める。イザーク兄様も散々な目にあってるのを思い出したのか、うんざりって顔だ。
「皇帝は、色ボケしてたって話、聞いたことあるけど」
「ああ、それも、なんか王太子とその息のかかった側妃の陰謀だったんじゃないか、っていう話が出ている」
「へぇ~」
双子とイザーク兄様たちの会話を、耳をそばだてながら、なんとはなしに聞いている。
側妃っていうのが、どの人なのか、あの前に助けた女性でなければいいな、と、ちょっとだけ頭をよぎる。
帝都周辺は、特に荒廃しているらしい。まぁ、精霊王様たちを怒らせちゃったんだから、仕方がない。でも、あの皇太子が皇帝にならないんだったら、そろそろお怒りをしずめてもらってもいいんじゃない? と思ったのだけれど。
『駄目よ。美佐江。そんな甘いこと考えちゃ』
今日は水の精霊王様だ。ミニチュアサイズでぷんぷんしてる姿は可愛らしい。今、彼女の姿や声が聞こえているのは私だけのようで、皆はそれぞれおしゃべりをしている。
私はぼそぼそと小さい声で話しかける。
「でもさ」
『あの人間の国だもの……絶対、また何かやらかしそうよ』
「いや、でもね、もうそろそろ、勘弁してあげてもいいんじゃない? 関係のない国民も困ってるわけだしさ」
『まぁ! ほんと、美佐江は優しいんだから』
いやいや、全然優しくないし。
『……そうね。じゃあ、今、影響のある範囲以上には手を出さないわ』
じわじわと土地が荒れ果てている地域は広がって、今では昔の帝国が支配していた地域全域に至っているらしい。
「いやいや、もうちょっと」
『嫌よっ。美佐江をいじめたアレ、悠々自適に離宮で遊んでるんだもの』
「……は?」
『アレの始末がつけられない間は、あの国はあのままよ』
拗ねたようにそれだけ言うと、水の精霊王様はヒュンッと姿を消してしまった。
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