第50話

 私とイザーク兄様が双子に追いつく直前、揉めているような声が聞こえてきた。


「だから、言ったじゃないかっ」

「戻ってきちまったのは仕方ないだろっ!」

「いっつも、それだよね」


 3人の声からして、さっきの青い点の人達だろうか。

 その争いに双子は関わっている感じではない。

 ようやく追いついたところで、双子はやっぱり傍観している。顔つきは……うん、呆れてるね。

 喧嘩してたのは、双子と同世代っぽい若者たちのようだ。もしかして、彼らが『遠雷』とかいう冒険者パーティだろうか。


「パメラ姉様」

「あ、ミーシャ」

「あれは、ずっと?」

「うん……話を聞きたかったけど、彼らの言い合いでなんとなく察することができたかな」


 なんでも、ここに戻ること3回。

 一応、8階までは行ったらしいんだけれど、7階で2回、その8階で1回、トラップにかかって、6階のここに戻ってきてしまったらしい。


「転移陣のある部屋があるってこと?」

「どうなのかな、話の感じでは、何かに触れたとか、開けたとか言ってるから、目に見えてわかる感じじゃないのかも」

「うわ、めんどくさい」


 ぼそぼそと姉様と話している間に、ついには殴り合いになりそうだったので、ニコラス兄様とイザーク兄様が止めに入った。けっこうあっさり、のされてしまった彼ら。もうちょっと訓練しといたほうがよくないか?

 それにしても、この程度でよく8階まで行けたものだ。


「……す、すみません」


 リーダーっぽい男性が、頭を下げる。この人が『トッコ』とか言われてた人だろうか。


「このまま放っておいてもよかったけど、ここ、セーフティーゾーンではないよね」

「は、はい。6階にはセーフティーゾーンはなくて……」

「じゃあ、7階にはあるのかしら」


 パメラ姉様の問いに、リーダーが一瞬固まる。


「7階にはないの?」

「えっ、あっ、はい、な、ないですっ」


 今更パメラ姉様に気が付いた模様。顔を赤らめて答えてるあたり……姉様の美しさにやられたか。まぁ、気持ちはわかるが。中身は……ゲフンゲフン。


「じゃあ、8階は?」


 ニコラス兄様の問いかけに、ハッとした顔になる。


「え、双子?」

「そう、双子だけど、今は俺の問いに答えて欲しいんだけど」

「あ、す、すみません……えと、8階はまだ全部見てなくて」

「そっかぁ。あ、あのさ、このダンジョンって、入口まで戻るのって、歩いて戻るしかないのかな」

「あ、はい。7階までは戻りの転移の間は見当たりませんでした」

「なるほど……ニコラス、もしかして、10階とかいかないとないパターンかな」

「ないとはいえない。でも、元々浅いダンジョンだったら、それすらもない可能性あるよね」

「あー、そういうヤツ?」


 いつの間にか、リーダーそっちのけで会話する双子。ちょっと、哀れに見えてくる。


「パメラ姉様、ニコラス兄様」

「あ、ごめん、ごめん」

「あー、悪い」

「とりあえず、あなたたちはどうするの?」


 ここで喧嘩をする元気はあるようだけれど、彼らはどれくらいこのダンジョンにいたのかわからない。


「あー。もう一度8階まで戻るのは……」

「無理だよ」

「無理だね」


 仲間から否定されて、がっくりと肩を落とすリーダー。

 結局、彼らはここから戻ることにしたらしい。戻るだけの余力はあったのか、と少しだけホッとした。

 彼らとはT字路で別れ、私たちは先に進むことにした。

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おばちゃん(?)聖女、我が道を行く ~まだまだ異世界、満喫中!~ 実川えむ @J_emu

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