第31話
コークシスの宿を出て人気のないところまで行ったら、即転移。隣の大陸のエルフの国、シャイアール王国の港町の外れに飛んだ。以前、行商人で馬車移動することになった時に、通りすがりにこっそりマーキングだけはしていたのだ。
天気が小雨のせいか、目の前の街道には人通りがなかった。
「ここから少し行くと港町だよ」
「港町ってぇと、カイドンの町のことだべな」
「だったら、乗合馬車もあるだろうし、運が良ければノドルドン商会の行商の護衛さ、させてもらうか」
「……ノドルドン商会?」
なんか、聞き覚えのある気がする名前が出てきた。
思わず、隣に立っているイザーク兄様へと目を向けると、兄様も眉間に皺を寄せている。
「ああ、この国じゃぁ、一番の商会だぁ。さすがにおらが村までは来てないがぁ、近くの大きな町には商会の支店もあるだでのぉ」
「んだ。そこまで行くのがあると助かるんだがな」
「んだなぁ。その町に、オラたちの息子が住んでるんで、久しぶりに顔見に行ぐかぁ」
個人的には微妙な気分になるものの、ボブさんたちの楽し気な声に、水を差すのも野暮なので口をつぐんだ。
私たちは小雨の中を、港町へと小走りで向かう。私はイザーク兄様に抱えられてますが。しょうがないじゃない、足の長さが違うんだもの! ボブさんたち? あの人たちは、あの足の短さの割に、早いのよ。例えは悪いけど、Gみたいに。
無事に町に入ることはできた。
その足で、ボブさんたちの目的の場所、ノドルドン商会に向かってみると、見覚えのある店構え。やっぱり、あの商会だった。
「ちっとばかし、待っててくんろ」
ボブさんたちが商会の表のドアから中へと入っていく。
私たちは軒先で雨宿り。この程度の雨では、こちらで傘などを差す人はいない。水気を軽く払った後、さっと生活魔法で乾かした。
私とイザーク兄様としては、居心地はよくない。行商の途中で抜けちゃったし、もう関わることもないと思ったんだけれどなぁ。
今日の担当は、火の精霊王様。そういや、ここの奥さんって。
『うーむ、随分と精霊たちが喜んでるなぁ』
精霊王様が呆れたように言ったかと思ったら。
ドーンッ
激しく何かがぶつかるような音がした。何事と思い、出入り口の方へと目を向ける。
「ミーシャ様っ!」
……精霊の言葉がわかる狼獣人だったね。忘れてたよ。
「こ、こんにちは」
「ああ、この前は本当に、ほんっとうにっ、申し訳なくっ!」
「い、いやいや、ちょっと、立ってくださいっ!」
いきなりその場で土下座しそうになっているので、慌てて止める。
天気が悪いから人気が少ないとはいえ、こんな大店の奥さんが、店の前で土下座なんかしちゃ駄目でしょっ!?
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