あたしは この世界に呼ばれていない

 ミチルが部屋から出ると、入り口ではベルクがしゃがんでいた。尻尾と耳がしゅんと垂れている。

「ごめん。さっきは僕たちが気分を悪くさせたんだよね」

「違う!違うの!!あたしが悪かったから……ごめんなさい」

「どうして。僕らが騒ぎすぎたんだろ?って。フォル兄さんが」

 ミチルからベルクの背中に腕を回し、ふぅ、と深呼吸をして見(まみ)えてみせる。

「ごめんなさい。実はあたし、褒められると緊張しちゃうの。嬉しいのに嫌って言っちゃうの」

「?」

「ベルクと会う前は自分のことバカって言ったり、『無理、できない』って言う方が褒められたの。そーゆー世界にいたの。だからこの国でも評価されると否定しなきゃって頭がパニックになっちゃって」

「どういうこと?」

「ホントそうだよね?なんでだろうね?」

 ベルクがあまりに真剣に眉根を寄せるので、笑ってしまうしか、ない。

「この国では、ベルクもフォルもローズもルーンも、王様もお妃様も、仕えの人もみーんなあたしのことを認めてくれるのにね?こんな素敵な環境なのにあたしの内面が追いついてなかったんだよね?」

「今まで迷惑だった?」

「逆。あたしがゴメンなさい。ルーンの言ってた通り。過度な謙遜は失礼だったよねーーって、ルーンって本当に14歳?」

「ルーンはフォル兄さんのクローンだから……」

 あはは!ミチルが声を上げて笑ったので、ベルクがよしよしと伝えるように髪をすきだした。

「ミチルは頑張りかたを間違えてただけだよ」

「うん」

「ミチルがこの家に来てくれて、僕も、兄さんも、ルーンも、父上も母上も喜んでる。居てくれるだけでいいんだよ?伝承のオトメなんかじゃなくっても、医者になってもならなくっても、僕らはミチルが好きだよ?嘘じゃない。言ったろ?僕は救われたって。何もしなくてもミチルは必要なんだよ?」

「うん」

「大丈夫だよ。みんながミチルを大好きだから」

「……うん」


 ねぇ?あなたの一言にどれほど救われているかなんて知らないでしょう?

 あたしが この国のために居るんじゃないよ? 

 ベルクが あたしのために居るんだよ?

 

 この世界があたしを呼んだんじゃない

 あたしはきっと ベルクに会うために この世界にやってきたんだ


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