第3話 神様は雑な特盛がお好き
視界に入ったのは真っ白な石造りにガラスのシャンデリアが生えた見覚えのない天井。窓からやわらかに降り注ぐ陽射しが眩しい。
(あぁそうか。家じゃないんだ)
しばらくぼぉっとしたあと、ゆっくりと上半身だけ起こし、両手を仰いでうーーんと背伸びをする。沢山眠ってカラダが固まっていたのか、筋が伸びて気持ち良い。次に肩甲骨を意識して肩をグルグルと回して気がついた。
(か、肩こりがない!?)
(も、もしやいっぱい寝た?)
ぐ、ぱ、ぐ、ぱ、と指先を動かして、自分の肉体を確認しながら手の甲を見れば、確実に肌のシワが少なく、ハリがある!自分の手のひらを頬にあてると、以前よりずっとみずみずしいことがわかった。鏡がないが、わかる!肉体は若返っている!!!
記憶はそのままで肉体が若返るなんて!!
やったぁ!!大チートじゃないか!!ありがたい!!
自分が遊びに費やしていた十代と二十代の体力をフルに有効活用してみせる!!
ミチルが拳を握りしめ、メラメラと野心に燃えていたとき、ガチャ、と部屋のノブが動き扉が開いた。
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「やぁ!目が覚めた!?」
扉の向こうから現れたのはプラチナブロンドを通り越した白銀髪に笑顔が眩しく輝く男性だった!
「おはよう、とでも言えば良いのかな?気分はどう?」
ミチルのベッドの横の椅子に座って見つめてくる紫色の瞳が本物の宝石のように美しくて!見惚れてしまって声が出ない!
(え、カラコンじゃないよね???いや、なにこれ起きてすぐに顔が天才とか!え?どういうことなの?)
こちらの頬が緩んでしまうほど、愛らしく目映い笑顔に警戒や緊張なんて一瞬で吹き飛んでしまう!
とはいえこちらもぼぉっとしている場合ではない!!
「ありがとうございます。気分はとてもいいです。えぇと、私はどれくらい眠っていましたか?」
「一ヶ月くらいかな?でもそれは僕がキミを見つけてからなんだ。いつから倒れていたのかは正確にはわからない」
「倒れていた?」
「そう。この国の森の神木のもとでね」
「神木……」
(うーん。なかなかあの神様も凝った設定盛り込むなあ。
え!?てかよく野生動物に食べられずに済んだよね?
せっかく生き返ってもクマに食われたら死んでたんじゃないの?
ちょっと盛り込みの割に雑じゃない?グロ描写はOKなの!?コンプライアンス―!?)
「てことは見ず知らずの私を拾ってくれたんですよね?ありがとうございます!!」
ミチルがふかぶかと頭を下げると青年は首を振る。
「実はキミのことは昔からこの国で語り継がれていたんだ。伝承の通り、神木の傍で本当にキミが眠っていた。僕は一方的にキミのことを知っていたから、全くの見ず知らずとも思ってないんだよね?」
(え、ちょっと、テーマが壮大すぎなんですけど!聖女モノとか魔法ファンタジー小説と間違えてない!?!この作者だよ!?大丈夫!?そこんとこよろしくね!?)
「ねぇ?なんて名前?どこの国から来たの?あそこにはどうやって来たの?食べ物ではなにが好き?」
「えーと?犬飼ミチルです。日本出身です。日本語しか喋れません。でもこの世界で通じてるのでラッキーと思ってます♪で。その樹にはどうやって来たかは私もわからないんです、ごめんなさい。好きな食べ物はイチゴのショートケーキ♡って言いたいけど、正直お肉とお酒があれば生きていけるかな」
「お酒と肉は僕も兄さんたちも好きだよ。肉料理は?たとえば?」
「そりゃもう、焼肉一択でしょ。ハンバーグとか言わないから?」
「ヤキニク?」
「あ、ご存じなあい?」
目の前の美青年にニンニクの説明をするのも気が引けるけれど、食べ物の話は重大だ!肉を焼くだけだが、そのタレが重要なのだと力を込めて話してみせると、目の前の青年は楽しそうに頷いている。
「よぉし、来週にでもシェフに作らせよう!あ、今日はまだダメだよ?胃に優しいものから食べないと。ま、おかゆなんて僕だったら嫌だけどね?」
「あたしも!」
「それじゃあミルクと果物を用意するよ!僕の国は果物が美味しいから!」
「ちょ!ちょ――――っと、まって?」
「?」
「あたしはあなたの名前を知らないの。教えてくれる?」
「遅くなってごめん。僕はベルク!」
彼は名乗るやいなや、バタンと音をたてて部屋を出て行ってしまった!
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