第2話 スクランブルエッグの気持ちがわかるひと、手ェあげて!
真白なまっしろな空間 なにもない 誰もいない
右も左も前も後ろも上も下も 全部真っ白
『犬飼ミチルさん』
「は、はい?」
ミチルは天を仰いで降ってくる声に応えた。
『ここがどこかわかりますか?』
『先ほどまであなたはどこに居たのか覚えていますか?』
「えぇとーーふれあいコーナーに……」
『そこでなにがありました?』
「モフ達とのふれあいコーナーに暴走車が突っ込んできて……子供をひこうとして……沢山の人が逃げてて。でもお母さんから離れたから子がいてーーそう!だからあたし、助けようとしてーーー」
ミチルの声が次第にか細くなる。一緒にいたサクヤはいないし、今現在、ここは芝生でも動物公園でもないし、モフ達もいない。
「もしかして……あたし、死にました?」
『おや、受け入れが早い。大抵の人はここで気が狂うんですけどね?』
「あの!私が助けたあの子は生きてますか?」
『はい。怪我もなく、翌々日から幼稚園に通っていますよ』
「よかった」
ミチルの口から、はぁ、と安堵のため息が漏れる。
(これであたしも死んだ甲斐がーーー)
『それがですねぇ?あまりよくはないんです』
「はい?」
『実はあの子は件の暴走車に轢かれる『予定(うんめい)』だったんですよ』
「え?」
『安心してください。轢かれて入院はしますが、奇跡的に死ぬことは有りませんでした。壮絶なリハビリを経て、過度な運動ができない程度の肉体まで復帰します。彼女は自身の命が救われた経験から医学に献身する運命(シナリオ)だったのです』
「え?え?」
『彼女は小児外科医として沢山の命を救い、活躍します。また、日本だけでなく、海外にも彼女の名と共に志が知れ渡る。そして大きな財団の協力のもと、事故でハンディを背負う方々のための施設を作り上げるのです。すると今度は沢山の補助用コンピューターが開発されますね?当然のように、車椅子、義足の開発が日本で爆発的に進歩します。さらに日本全国でインフラ設備の助長、法の改定までもが見直されることとなりーー』
「え!ちょwまっwwwストップストップストーーーーーーーップ!!」
ミチルがぶんぶんと大きく手でバツを作って、いったん待ってコール!!
「じゃあ、あたしって……無駄死に?」
『そこまでは言いません。彼女には違う方法で壮絶な幼少期を送ってもらうことになった。それだけです』
やっぱあたし無駄死にじゃん!
「ま、マジかーーーーorz」
『こちらも驚きましたよ。本来でしたらあなたも立ちすくんだまま動けない傍観者(モブ)の予定でしたから』
「うん。まぁ、だよね?(モブって言っちゃうんだ)」
『あなたがやったことは絶対に褒められたことではありません。が、あなたをこのまま昇天させるなと嘆願がきてしまいましてね』
姿は見えないが、頭を抱えている様子が浮かぶ。(神様?も大変そうだ)
『肉体的に滅したあなたを生きかえらせることはできません。ですから違う世界で生まれ変わってはどうでしょう?』
「はぁーーーって!えぇ!?はぁ!?ドゥ!?ホゥ!??」
寝耳に水。青天の霹靂。藪から棒。棚からぼた餅ーーは違うか。(他、なんかあったっけ?募集中)
『どうです?』
「はぁ!?なんで?いや、そりゃ嬉しいは嬉しいけど……」
『生前、あなたのことを好いていた方々達から嘆願が来たのですよ。あなたがこれまで尊び、慈しんだ命達が「あなた」に生きて欲しいと願っている』
「うそ!?」
『本来、生まれ変わるなら記憶がないに限ります。ですが、今回はどうにもあなたの一風変わった趣味趣向が尊重されておりますのでね。で?どうです?それでもやりますか?』
「やる!やりまする!!」
『また答えがはやいですね』
「あたし本当はやりたかったことがあったんです!それやれるまでは死ねないって心から思えたの!だから!」
『わかりました』
ぐるん!と天地がひっくり返り、立っていたはずの地面が天井、天井が足元にかわる。
「え!?」
ぐるん!と一回ひっくり返って。
「はぁ!?」
そしてもう一度!
「ちょーーーーー!!!」
また、もう一度!また!また!また!また!また!
「ちょーーーーーーーおおおおおおおお!!!」
まるで砂時計を何度も何度もひっくり返しているように、真っ白な世界が上下に反転を繰り返す。自分が立っているのかも座っているのかも、どちらが天でどちらが地面なのかもわからなくなる!
ぐるんぐるんぐるんぐるん!!!
あぁ、これって自分が攪拌されてる卵みたいなーーーー?
スクランブルエッグになる直前ってこーゆー気持ち!?
「うわあああああああああああ!!!」
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