レビュー ★★★★☆

 自分のために用意してくれていたのだろうか?

 サイドテーブルに置かれたカップの水とカラフェが光の粒を帯びて光っている。

「おいしい」

 水のぬるさが彼が本当に自分が目覚めるのを待っていたのだと教えてくれるせいか、美味しい。


 落ち着くと視界がクリアになる。なんて綺麗な部屋だろう。壁も天井も真っ白で手入れが行き届いている。天井から床までの大きな窓から差し込む陽射しのおかげで、調度品はないが幽閉城のような侘しさはない。高い天井には小さなシャンデリアが吊るされており、この家が経済的に恵まれていることを象徴している。

(もしや、これが噂のナーロッパ?)

 あちこちに電気の気配が無い。日本ではない、全く別の世界にやってきたのだとやっとで実感が追いついてきた。もう日本じゃない。ネットもない。弱音が吐け、なんでも相談できたサクヤにも会えない。


 だが、自分で選んだのだ。だから呼ばれたのだ。嘆いてるヒマなんてない!!


 べちーん!と大きく音をたてて頬を叩いていると、先ほどの青年が見ただけで絶対美味しいとわかる色艶の良い山盛りのフルーツとあたたかなミルクをワゴンに乗せてやってきた!毒林檎ほどの真っ赤な林檎、あちらの真っ赤なルビー色の柑橘類はブラッドオレンジだろうか?ワインの香りがする緑色の葡萄に、あっちはなんだろう?見たこともない原色カラフルな果物が山盛りで、これらが千●屋レベルの果物であることは理解できる!

(ちょっと待って!?もしかして、ここ、ガチでお金持ちだったりする!?)

 神様のサービス?今のとこ、レビュー的には★★★★☆ですけど!!


 ミチルが水を飲む横で、ベルクはナイフでクルクルと林檎の皮を剥いてみせる。長く続く林檎の皮を見つめているうちに、林檎はいつのまにか四等分が十六等分にカットされた。器用にナイフを使いこなす狩猟民族の手捌きに見惚れていれば、唇の前に一口サイズの果実を差し出されて。あーん、と遠慮なしに指先のそれにパクついてみせると、シャリっと優しくも爽やかな甘みが口の中に拡がる。

「ほひひい!」

「よかった」

 ミチルが「今度はあっちも食べてみたい」と言えば、彼は嬉しそうに橙色の果実に斬り込みをいれだした。

「お腹はいたくない?急に食べたりして」

「うん!」

「本当はリンゴをすり下ろしたものやオートミールが良いって頭ではわかってるんだけど……」

「しゃきしゃきリンゴのほうが嬉しい。にしても美味しいね?このリンゴ」

「父にも言ってやって。喜ぶから」

 飲み込みながらこくこく、とうなずいていると今度はブラッドオレンジのような赤い柑橘が唇に運ばれた。甘いのに酸味もあってーー地球の農家さん、ごめんなさい。これ、前の世界で食べたものより美味しいデス。


「あとで僕の父上と母上と兄弟を紹介するよ。みんな待ちかねていたんだよ?千年のオトメだからじゃなくってさ?どんな子なんだろうって、ワクワクしてたんだから!ミチルのこともすぐに気にいるに決まってるよ」

「ベルクは何人兄弟なの?」

「四人」

「何番目?」

「三番目」

 幸せそうにオレンジにかじりつく彼を見れば納得がいく。打算なしに優しいのも、笑顔が魅力的なのも、これまでたくさん愛されてきた証拠だ。

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