ただのモフオタでも、役に立てることがあったよ。

 窓の外の灰色混じりの薄桃色の雲がじき夕刻だとつげている。高層ビルもコンク道路も見慣れた山もない。遠くの山端から闇がせまる。このお城は街中の高台に建てられたおかげで見下ろせる緑と石造りの街並のコントラストが絶妙。すてきなセンスの持ち主だ。 

「ミチル?」

 ぼぉっとしていたミチルの瞳を大きな濃紫の瞳が覗き込んできた。テーブルの上にはロウソクの用意がしてある。おそらく優しすぎる王子さまは早くから人間の心配をしにきたに違いない。

「夕餉はどうする?疲れてない?父上も母上も揃うけど、無理はしないでほしいんだ。誰も強制しないから」

「お腹は空いていないけど、顔だけでも出したほうがいいかな?って思ってはいたの。挨拶だけしたら部屋に戻ってもいい?」

「もちろん」

 美しい白銀の彼はタンポポのように、ふんわり優しく笑う。

「さっきはありがとう」

「え?なにが?」

「僕を馬鹿にしないでいてくれて。初めてだったんだ。僕のコンプレックスを笑い飛ばしてくれるコなんて」

「ゴメンナサイ。あたし、だいぶ失礼をしました……」

(勢いでバカって言っちゃったし)

「違うよ!僕はキミに救われた!自分で自分を嫌いにならずに済んだ!本当に本当に救われたんだ!!その――ミチルは僕のためにこの国に来てくれたとすら思っているほどに!」

「いやいや!あたしの性癖がアレなだけで!フツーの人間はあんなこと言わないから!」

「だからだよ!ミチルがこの国に来てくれたことに心から感謝しているんだ!」

(ありがとう)

 抱きしめられた耳元で聞こえる彼の声が潤んでいて。彼の魂のためにも、これ以上謙遜してはいけないとわかった。



 あたしの性癖が役に立つって神様が言ってたのはこういうこと?

 ねぇサクヤ?ただのモフオタでも、お医者さんじゃなくっても、役に立てることがあったよ。

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