第14話目 休・九


 数年が経ち、国は随分と見違えた。ミチルが訪れて不潔さに顔をしかめた国は今では跡形もない。厠や手洗い場が街の至る所に存在し、そこらに汚物が垂れ流される景色は普通ではなくなった。風呂は毎日入れるよう保証されているし、工事の範囲が広がるたびに市場がつくられ、町はにぎわっている。もちろん子供たちも働いているが、学校に通えるようになった子供は増えたようで、無邪気に遊んでいる姿も増えた。

 予防医学という概念も普及し、実際この国の病人による死者数が減っていると聞いたときは王子兄弟たちと一緒に喜んだものだ。もちろんミチルはハルタに吉報を送ったのだが、返事はあっさりとしており、それよりもっと重大なイベントに備えろと説教で〆られていたのだった。

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 ミチルが大学の図書館で勉強を終えたころ、ベルクが迎えに来る。ベルクはミチルより先に大学生を終了し、王子としての公務が増え、かつてのようにべったりと図書館に滞在することはなくなった。

それでも二人きりで過ごす時間だけは守らなくてはならなかった。どんなときも。いつだって。夕ご飯が一緒に食べられなかったとしても、夜、眠る前にお喋りはできるもの。


「図書館の入口にできた三色の薔薇のステンドグラスってベルクのアイディア?」

「うん」

「すっごく綺麗ね!休憩のたびに癒されてる」

「ミチルのために作ったから。いつでも僕のこと思い出せるだろ?」

「……///」

真っ赤に固まるミチルをそっと優しく抱きしめて笑ってみせる。

「緊張してる?」

「今はしてない」

「よかった」

 ミチルの指先が高い体温に包まれる。ゆっくりと預けられた体重をよしよしとあやしてみせれば、ミチルが誰にも見せたことのない弱弱しいため息をついた。

「今度はミチルの番だね」

「うん」

 国家試験は明日に迫る。ミチルがこの国を訪れて九年以上が経っていた。

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