水面の月

 ミチルが願えばわざとモフ姿をあらわにしてモフモフの抱き枕になってみせた。落ち込んで泣いていたときは、ぺろ、っと顔を舐めたら笑ってくれた。ときおりベルクが黙ったまま寄り添うと、ミチルは抱きしめてゆっくりとゆっくりと何度も何度も背中を撫でた。顔をすり合わせて、頬を寄せ合うだけのキスなのに、どうしてこんなに満ち足りて幸せなんだろう。

「ねぇベルク?」

「ん?」

「私、幸せ」

「うん、僕もだよ」

「どうしてかな?ベルクといると安心するの。ドキドキもするけど、それだけじゃなくて」

「うん、僕もだよ。離れたくない」

「あたしも。ダイスキ」

「僕もだよ」

 苦しいほど力いっぱい抱きしめあって、手を握って寄り添い眠るだけ。そんな夜が何千回と繰り返される。ただただ、指先だけで愛おしい存在に触れる。



 一緒に居られるだけで幸せだなんて 

 こんな感情を知らなかった



 真剣なカオも、こちらだけを見つめて笑うカオも、自分に身を預けて眠りに堕ちるカオも、沢山触れ合ってうっとりとしたカオも。全てが全てが愛おしくて。誰にも見せたくない。目の前の愛おしい存在を自分だけのものにしたい。月夜を迎えるごとに切なさと独占欲がつのる。





 彼女は水面に浮かぶ月


 種族の違う華奢な存在は腕の中で閉じ込めるだけで精一杯。

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