第18話 はる

 ミチルが目覚めて少しだけ月日が流れて。リハビリを終えたら勉強しながら医学院に通ったり、時々はピクニックをしたり、お菓子を作ったり、隣の国へ出かけたり。無理のないよう、少しずつ生活を戻しているうちに、もう一度国家試験の季節が訪れた。この世界も年度の代わりは春。新緑はまだだけれど、道路の花が愛らしく咲き始め、薄色の桜の花が八部咲いて見事に美しい。

 この一週間、受験したミチルよりも兄弟達の方がソワソワしながら郵便局員の来訪を待っている。待ち疲れている彼らのケアの方が大変で、おかげでミチル自身がヤキモキするヒマもない!

 コンコンコンコン。四回のノックのあと、返事をすれば

「ミチル」

郵便物が届きましたよ、と王妃様が直々にお出ました!!

「あぁ!?おありがとうございます!!」

 本日の王妃様は人間姿。ベルクと同じ白銀髪は夜会巻きにされ、デコルテラインが美しい真っ赤なドレスワンピースに、手元の郵便物よりも意識が飛んでしまいそう!

(王妃様が王子達を美しく産んでくれたのってなにそれありがとうだし、あの王様の遺伝子を残したって宇宙レベルですごくない!?はぁ、洗剤セットかハムの詰め合わせを贈りたい。王妃様に感謝したい。しても足りない。ツラい)

この世界で何億回と叫んだ魂の声を はぁ、と物憂げな溜息にかえると。

「わたくしがいると通知が見づらいかしら?」

 王妃がいたたまれなさそうにうつむいている。ミチルの憂いを王妃は自分が邪魔だと解釈してしまったようだ。

「ちちち違います!!ごめんなさい!王妃様が美しくて見惚れていただけです!!」

ダイレクトなミチルの咆哮に王妃が目を丸くしているのはさておき、ペーパーナイフで封書を開いてみればーー

「あ!合格です!合格しました!!」

二文字を見て見て、と王妃に見せると、口角を上げ、微笑んでくれた。

(はぁ……う、美しすぎる……)

 自分が国家試験に合格とか主役になって良い日なのにいろんなものがどうでもよくなった。王妃様はズルイ。

「ミチルーーー!!!」

 兄弟の声だ。ノックもなく乱暴に扉を開けるなり、ゼェハァと肩で息を切らしている。

「さっき、通知が、届いた、って……」

「あ!うん!」

「それで?」

「どうだったんですか?」

「うん!受かってた!」

「うん、そっか……」

「よかっ……」

 封書が届いたと聞いて、全力疾走してきたに違いない。自分たちのここ数日分の緊張感が解けたりして、全 員脱力。

「みんな!?」

「かあさんが…」

「抜け駆けするから…」

「こっちは一緒に見るつもりだったのに…♪」

「言うな。実質最高権力者だぞ。死にたくないだろ」

 みんなもう二十歳を超えたってのに、未だに母親に頭が上がらないってね?

「ミチル!合格おめでとう!」

「ありがとう♡」

「すごいなぁ。頑張ったねぇ。本当に医者ってなれるものなんだねぇ」

「ありがとう♡」

「たゆまぬ努力の賜物だな」

「いやぁ…そんなこと…にゃはは…♡」

「謙遜は高慢だと言ったのを覚えていないですか」

「はい!素直に喜びます!」

 順々に通知書を見た王子たちが「おめでとう」を言ってくれるたびに、心がぽかぽかする。


 もう、あたしは落ちこぼれのミチルじゃない!

 うじうじしてた あたしじゃない!

 ハルタに嫉妬して泣いていたあたしじゃない!


 今なら言える!

 あたし、自分のこと、大好きだ!!


「ねぇ、ミチル。明日、大学の卒業式に行ってみない?♪」

「へ?なんで?」

 自分が眠っているうちに卒業証書は発行されていたのだ。

「なんでって。ミチルは参加していないでしょ?気分だけでも味わったら?」

さっすがベルクとローズ!キザモテ男子二人組!発想が華やか!!

「式には出られなくってもさ?卒業生にこっそり混じって教師に合格通知を見せるってのもアリじゃない?」

「じゃあそうしようかな…いいのかな?」

「「「「いいに行きまってるだろ(♪)(よ?)(でしょうが)」」」」



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