第19話 超×寵愛サレて いいですか?

 大学の卒業式はうららかな日差しのなか執り行われた。学校に桜の花はないけれど、おだやかで柔らかな陽だまりが注ぐ行事は日本を思い出させてくれる。ミチルはカナリアイエローのワンピースドレスに身を包んでみせた。某美女と野獣をイメージした服装でも、仕上げは相変わらずなあの白いリボン。本当は映画のようなドレスも着てみたかったけれどーー。

(ま、卒業生じゃないからね!贅沢言わない!)

 そんなミチルの配慮など無視して王子達はガチ正装で挑んでる。こんなのミチルより保護者(おうじたち)の方が目立つじゃないか!

(ば、ばかなの!?)

 フォルのダークグリーン、ローズの臙脂色、ベルクの濃紫色、ルーンの真っ白な軍服姿は眼福どころか、どこのオトゲ案件だし、こんなレアガチャ映像は心臓に悪いからやめてほしい。

(そうだった。この人たちカッコいいんだった!!)

 見目麗しい王子たちが礼装で揃っているということもあって、在校生や参列者はおろか、主役の卒業生までもがざわついている。

(どこが「こっそり」よ!でもかっこいいもんね!?わかる!知ってる!)

 視線なんておかまいなしにベルクがこっちこっち、と大学のシンボルでもある千年樹のふもとに引っ張ってきた。祭典が行われる講堂とは真逆で静かな場所。

「じゃあミチルも卒業式だね!」

「へ?」

「こーゆーときは兄さんの役割だから!♪よろしく!」

ローズが一枚の紙を手渡してバトンタッチ★フォルもうん、と空咳で厳を漂わせようとしている。

「ミチル」

「は、はい」

「××××年度、×月×日、××大学を卒業したことを証明する」

フォルが卒業証書を渡してくれるので、頭を下げてうやうやしく受け取ると、おめでとう、と兄弟たちが拍手をしてくれる。恩師に合格通知を見せるなんて口実で。忙しいはずのみんなが自分のために時間を作ってくれたのだ。


(ズルい。もぉ、だめ。本当にズルい。みんな、好き)

 卒業証書で涙まじりの顔を隠していると、ベルクが「帰ったらケーキが待ってるよ」なんて呟くものだから。笑いながら泣いてしまったじゃない?


「で?この先はどうする気なんですか」

「うーん、やりたいことはいっぱいあるんだけどね?大ケガしてるモフちゃん助けてあげたいからそっち!もうね?モフ専用のERがあればそっち行きたいの!てかER作りたい!」

「へぇ。開業じゃないの♪」

「開業には経験が必要だ。すぐにはできまい」

「ま、ようやっと一段落じゃありませんか。よかったですね、兄さん」

「うん!本当におめでたいよね!あ、今夜はミチルの好きなハンバーグだって♡」

「わーい♡」

 ベルクとミチルの小学生な会話に、三兄弟が某新喜劇のように滑りコケる。

「「「……じゃなくて!!!!」」」」

「これで気兼ねなく公的な婚姻関係を結べるのでないかと言ってるんです!」

「弟になにを言わせてんの!」

「夢を叶えてこれから働くミチルの気持ちを尊重したら、子供はもう少し後にした方がいいとは思うが。まぁそれは我々が決めることではなく二人で決めることだしなーー」

「ぶっちゃベルクは兄さんみたいに世継ぎを産めって立場じゃないし♪そのへんミチルはお気楽に考えていいんじゃない?

「な―――///」

「ちょ!ちょっと!!」

「なんだ」

「なに」

「なんですか」

「あの。あたし達って婚約者って言っていいんですか?」

「「「はぁ????」」」

「だ、だって!ねぇ?」

「……」

 頬を真っ赤に染めたミチルがオロオロと振り向いてベルクに同意を求めようとしたのだがーー目をそらされてしまった。

「ミチル。あなた、本気で言ってるんですか?」

「ひっ」

 ルーンから聞いたことのないドスの効いた低い声にミチルの背筋が凍る。

「ベルクは献身的すぎるほどお前のそばに居た。病めるときも健やかなる時も隣にいた。我々こそふたりは『そういう』関係だと思っていたが?」

「だ!だって!!あたし達、キスくらいしかしてないのに!!」

「「「……」」」

「いやその……ハグはしてたけどしかもキスってほっぺた程度だし…その、いわゆる恋人かって言うと……ちょっと…」

「「「……はぁ?」」」

 ミチルが真っ赤な顔で訴えているのに!王子たちはナニイッテンダコイツと呆れている。兄弟連中からしたら二人の進展具合など話の論点ではない。なんならそんなノロケを聞かされてどうしろというのだ。

(むしろこれまで一緒のベッドで眠っていたのに懐妊の報告もなかった理由が判明し、男として尊敬と同情を集めているところだ)

「逆に訊きますけど。ミチル。あなたはどう思っているんですか」

「へ?」

「兄さんはただの便利な道具だったと?」

「ちがう!そんなこと言ってない!」

「兄さんの想いを知っておきながら飼い殺したと?さぞ滑稽だったでしょうね?一国の王子が女に手のひらで転がされる姿は」

「ちょっと!さすがに今の言い方はキツいんじゃないの!?」

「ふん!」

(うわ!本当に ふん、って言った!)

「ミチル。真剣な問題なんだ。僕たち三人は二人が恋仲だと思っていた。だけどそうでないなら話は別だ。ミチルがベルクとの未来を拒絶するのなら、ベルクは他にパートナーを見つけなければならない。 君の返答一つでベルクの運命がかわることもわかってほしい。照れ隠しだのそんなのはどうでもいい。感情を抜きに話をしてくれないか」

 いつも明るいローズが諭すようなお兄さんの話し方。だからこそ真剣に言葉を選びたい。

 でも、真摯に向き合いたいと考えるほど、なんと言葉を紡げば良いのか分からなくなる。緊張して指先が、喉が震える。

「だって!ベルクはモフの王子さまなんだよ?人間で、貴族でもないあたしが好きになっていい相手じゃないでしょ?あたしは礼儀作法もできないし、政治だって、社交界のマナーだってわかんないし、モフが好きすぎて変態だし……」

「ミチル……」

「あたしはベルクに会うためにこの国に来たんだよ?決まってるよ。ずっと一緒に居たいに決まってるじゃん!!」

 

 それに不安もあるの。

 本当にいいの?

 本当にあたし、幸せになっていいの?


「言ったろ?ミチルは僕に会うためにこの国に来たんだって」

「もぉ!やめてよ!あたしがベルクのことを好きだと迷惑かけるから我慢してたのに!みんなのバカっ!!」

「僕が不甲斐ないからミチルにふさわしくないのかと思ってーー」

「そんなこと言ってない!そんなのあたしが決めることでしょ!?あたしがどれだけ泣いてたと思ってんのよ!!」

「じゃあいうけど!こっちだって――」

「はいはーい!我慢の自慢大会は二人きりでやってねー♪周りに迷惑だよぉ♪」

「「!!」」

「ミチルを泣かせるなんてベルクも悪い男だねぇ♪どうする?今からでも俺に乗り換える?♪」

「へ」

「俺も王子様だし♪ベルクよりは気が利くし♪ミチルが望めばモモ(犬姿)にもなってあげられるけど♪」

 聞こえよがしにローズが耳元で笑うものだから、ベルクがひきはがすようにミチルを腕の中に閉じ込めた。

「僕らの邪魔をするなら兄さんでも●すよ」

「我慢してきたバカ同士、お似合いだ!おめでとう!」

 ローズが拍手をしていたら、周囲からも祝福の拍手が起こった!ミチルとベルクのことを知っていた同期生たちはいつのまにか集まってるし、なんなら二人を見守ってきたマロンなんて泣いてるし!!


「え!?やだ、ちょっと!!」

「僕が恥ずかしい?」

「そうじゃなくって!だって!こんな!みんなの前でってーー!!」

「僕は皆の前で恋人宣言できることが嬉しいけれど?」

 久しぶりの顔が天才を有効活用した王子様スマイルに、ミチルはなにも言い返せない!!

(そうだった!ベルクってカッコよかったんだった!)


「言ったろ?シロとして生きていたころからミチルのことを大好きだって。ずっとずっとミチルは僕のものだって言いたかったんだから」

(美女と野獣のラストってどんなんだったっけ!?あぁ!もう、知らない!!)

「もぉおおお!!」

 ミチルが ぐい!とベルクの襟元をつかんで引き寄せれば――――!!

「!!」

 先ほどよりも、もっと大きな拍手が二人を祝福した!








【ハピエンルートは はじまりのおわり】


「むかーし、むかし。ちょーーーーっとおかしなモフオタガールはモフの王子様に寵愛されて超愛しあいましたとさ♡」


 ちょうあいされハッピエンルート♪めでたしめでたし♪って?

 いえいえ。お伽話はこれからが始まり。

 開墾されたハピエンルートはコンクリ舗装しなくちゃ、ね♪




END





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モフ好きガール×モフボーイ=ちょうあいされルートを開墾します! SOLA @solasun

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