神様はアフターサービスがエグい(褒め言葉)

 人間族とも交流がある貴族や商人、王族にとって、獣人姿のコントーロールが下手なんて最大級の落ちこぼれだった。特にこの百年ほどは友好のためにも普段から人間姿をキープできることが最低限に求められるマナー。感情で耳や尾が出るなんて恥ずかしいと揶揄され、女性からは幻滅の対象だ!

 第三王子もそれなりに努力してきたのだが、常に完璧な人間姿を保ち続けることは苦手だった。「第一王子でなくてヨカッタヨカッタ」なんて言えるのは身内だけ。街へ出て失敗すれば「この国の恥」なんて笑い者。ましてや人間族の前で失敗でもしたら「気持ち悪い」「噛み殺される」なんて勝手な誤解が錯綜されがちだというのに!目の前の人間ときたらこの国でのコンプレックスをかわいいだの魅力的だのうっとりと褒めそやしている!


「僕はこんなんだから、王族の恥だったんだけどーー」

「は?なんで?耳と尾がでちゃうだけでしょ?」

「だからそれが問題なんだ!こんな失敗をさらしたら普通の人間は――」

「失敗ってwベルクがあたしに嚙みついたわけでもないのに?てかご褒美プレイじゃないの?」

「そ、そうだけど、そうじゃなくて!!」

「あたしはどっちかって言えば完璧な人間姿より今の方が好みなんだけどーーゴホンゴホン!!とにかく!たかがしっぽが隠せないくらいで国の恥ってなに!?それよりもあたしが起きるなりベルクが水をもってきてくれたことの方が大切じゃないの!?バカじゃない?」

「ぼ、僕がおかしいって言うの!?」

「は?そうでしょう?」

 もはやどうしてなんだってこの二人が喧嘩してるかもわからない。

 初めて見たリアクションについていけないルーンとフォルは口をポカンと立ち尽くし、ローズはあはははは!と楽しそうに拍手をしている!

「オトメは最強だねぇ♪!♪我々の獣姿を見ても怖気つかないどころか、できそこないをかわいいだなんて!ありえないでしょ♪!♪」

「え?あれ?変でした?」

「いや?最高だよ♪この国の救世主なんて伝承もあながち嘘じゃないかもねぇ?」

「は?今なんて?」

「聞いていなかった?伝承では『オトメ』はこの世界の厄災を一掃するとかなんとかって?僕も詳しくは知らないんだけどさ♪」

「誰が」

「キミが」


 いやいや!伝説の聖女とかそんな高尚な展開、この小説に求められてないんで!

 どっちかってゆーと、この小説はうじうじうだうだ過去に引きずられてる系女子や性癖がちょっとアレな女子向けであって――


「えーと?あたしは平々凡々なマチムスメAとしてそこらで働かせていただければそれいいので、ハイ」

 ぺこりと頭を下げ、くるりと回れ右をしようとしたが、首根っこが押さえられている。

「お待ちなさい。町娘にはしませんよ。この王宮の客なんですから」

(なんで睨まれなきゃいけないの!)

「この国に伝わる伝承が具現化したのです。あなたの存在はあなたが思っている以上に大事(おおごと)なんですよ。王家の名誉もかかっています。客人とはいえそこまで勝手も自由もありません」

「あたしがこの世界に来たのには理由があるの!悪いけどこの国の王子が邪魔するなら、あたし他の国に行くから!!」

「理由とは?」

「あたし、獣医になりたくってこの世界に来たんです!だからそんな救世主とか見せ物パンダとかやってるヒマはないの!!住み込みOkの仕事先を見つけなきゃだし、働きながら勉強してお医者さんの試験を受けなきゃいけなくて忙しいんだから――!!」

(すごい!あたし!よくぞ言った!!前とは違う!ノーと言える日本人!!)

 へへん!と腰に手を当てて鼻息荒くしてみせたが、彼らはナニイッテンダと呆れ顔。

「ではこの家に住みながらジュウイ?とやらを目指せばよいではないか」

「だよねぇ?♪?」

「へ?」

「学校教育を受けることも歓待だと言えるのではないですか?人間が獣人族の大学校に通ってはならないという法律はありませんし」

「この家に住んで学校通っていいってこと?」

 四人の王子が同時にこくりと頷いた。 


 ラッキーすぎて倒れそうなんですけど!!

 あの神様、口は悪かったけどアフターサービスがエグいじゃない!(褒め言葉)

 神様レビュー、★★★★★キープです!!


「ちょっと俺たちと一緒に外出したり、客人の人間族として紹介するくらいはあると思うけどさ?ま、宿代程度だと思って♪」

「ではなおさら早急に父上に申し出たほうが良いでしょうね。大学校の手配もあるでしょうし」

「わざわざ勉学のためにこの世界に来たって言ってなかった?」

「そうだな。オトメが崇高な意識を掲げてこの国を訪れたと知れば父上も母上もお喜びになるだろう」

「え、あの、それはちがくてーーはいいい?」


 ちょっとちょっとおかしくない?チートがすぎない?

 この人たち、大丈夫?理解ありすぎじゃない?

 ラッキーすぎて今度は不安になってくる。

 だってあたしは獣医になりたいって言っても笑われるレベルだったんだよ?


「なんでそんな応援してくれるの?初対面だよ?どこの誰かもわからないんだよ?あたし、優しくされすぎじゃない?SDGsとかこの世界でも流行ってるの?ねぇみんな落ち着いて?」

「なぜと言われても……」

「うーん?」

「客人とはこの国でのギフトと言われてきましたし。経済的に許せる程度にもてなすことは至極当然なんですよね?」

「まぁまぁ?こんなこと気にしてたら生きていけないよ♪女の子は尽くされて当たり前だと思わなくっちゃ♪」

 四人の王子としてはミチルの質問こそ不思議そう。ミチルだけが置いてけぼり。

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