目が覚めると そこは モフの国でした

「おぎゃああああああああ!」

 真っ白でフワフワのしっぽ+頭上にぴんと立つ三角の耳を見てミチルが大きな声を出したのがキッカケだった。

「ど、どういうこと?」

「言うのが遅くなって、ごめん」

 ため息をつくと、絹糸のように美しかった白銀の髪がごわごわとした獣毛にかわり、全身を覆い出す。漫画やアニメの王子様のような紫色の瞳は鋭い黒点が増え、鼻先はぐんぐんと伸びて湿りを帯びた黒い鼻ずらに変わるとピンピンと数本の髭が生え、唇の端は顔の半分まで伸びた。先ほどまで優しく果物を扱っていた指先は毛深くも十倍以上の太さに変わり、真っ黒な鉤爪と肉球を仕舞い込んだのをミチルは見逃さなかった。

 

 驚いていないわけじゃない。

 だけど驚きすぎて信じられない時って 言葉が出ないのが普通じゃない?


「ベルクは犬?狼なの?それとも人間?」

 先ほどの声とは違い、唸るような低い声が喉の奥から聞こえた。

「この国の民は狼犬と人間の混血なんだ。普段は便利だから人間の姿形をしているけれど、こちらも本当の僕なんだよ」

 恐ろしげだった巨大オオカミの姿は消え、先ほどの白銀髪王子様が頭を掻いている。カミングアウトに緊張して視線をあわせられない仕草からはオオカミの獰猛さも恐ろしさも感じられない。

「僕は落ちこぼれで、みんなみたいに安定して人間の姿を保てないんだよね。感情ですぐに耳や尾が出てしまいがちで……情けない話だけど」

 顔が天才×白ふわもこ尻尾耳って!最初からクライマックスじゃないですか!!!

「ぐはぁ……っ!かっ……あぁあ!!??? 」

「!?」

「かわいいいいいいいいいいいいいい!!!!!はあああああああああ!?なんそれ!?えええ?はああ!?」

 イケメンがワンモフ耳尻尾装備とか!理想が生きてる?息してる?

 なにそれ千億回地球が滅して千億回再生するんですけど!?

 この世界の皆さんが狼犬の獣人ってなにそれご褒美?ボーナスステージ?fa?アーハン?オーケイ?オーライ?オーイエス!

 あぁ、神様ありがとうございます!レビューは★★★★★でも足りません!!


 歓喜の悲鳴を抑えようと必死過ぎて全身が震えているのだが、兄弟たちには恐怖で震えていると解釈されてしまったようだ。

「ほらやっぱり………」

「早い方が良いじゃないですか。あとから獣人姿を見せて嫌われるほうがダメージは大きいでしょう?」

「僕としてはもう少し仲良くなってからーー」

「親密度が増した後の方が傷は深いに決まっています。ましてや兄さんは嘘をつくことに長けてもいないのに」

「うぐ……」

 はい論破。言い返せない兄の横でミチルが違う違うと手を振る。

「あの、ごめんなさい。そうじゃないの。えっと、その、嬉しくって」

「ほら……」

「「「「はぁ?」」」」

 ミチルの反応に、ベルクだけでなく他三人まで耳と尾が出てしまっている!(ほら!しまってしまって!)

「えぇ?だってかわいいじゃない?ベルクだけが尻尾が隠すのがヘタとか!嬉しいと尻尾ふっちゃって、悲しいと垂れ下がっちゃうとか?そんなのかわいいイヌじゃない?ただのかわいいの塊じゃない!!」

「かわいいって……」

「あ、ごめんなさい。褒め言葉なんだけど……失礼だったよね。えっと、オオカミもカッコよくて魅力的で素敵だよ?でもその犬のかわいさも最&高って言いたかったんだけど……」

「そ、そうじゃなくて!!!!」

 獣人族の姿にショックを受け、恐れられ、言葉を失ったと解釈していたベルクにとっては、ミチルの返答こそまさに晴天の霹靂だ。


(なんで?どうして?人間なのに?)

(どうして僕を恐れない?)

(どうして僕を馬鹿にしない?)

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