緩・閑話 フォル
「ねぇフォル?」
「?」
「この問題の解き方教えて?」
数学の問題集を片手にミチルがフォルの部屋を訪れる。
大きなテーブルではフォルが読書をしていたところで、ミチルはフォルが返事もしてないのにお構いなしに問題を開いた。
「この問題なんだけどーー」
「あぁこれならーー」
「あ、こっちも」
「ふむ」
「それからこっちも」
「……」
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「あぁよかった!ありがとう!フォルはさすがだね!」
読書の邪魔をしても怒らない!なんだかんだで年下に優しい長男属性!
「ベルクに聞かなくてもよかったのか」
「なんでベルク?」
「いや、年も近いしーー」
「ベルクは解けるけど教え方が上手くないから」
「なるほど」
腕を組み、フォルがうなずく。
「ローズは……教わりたくない。なんとなく」
「なるほど」
それも正しい。勘は良いようだ。
「ルーンは絶対教師にしたくない」
「ルーンはミチルより年下でまだ高校数学を習ってないぞ」
「でも絶対解けるでしょ?」
「おそらくな」
「だから!ルーンは年下らしく甘えさせてあげたいし!あたしがしっかりしないと!」
「えらいな。お前は」
フォルが頭をなでてきた。
「にひ♡」
おかえし、とミチルが頭をなでなでするとーー
「……」
フォルが頬を真っ赤にして固まっている。
「あ!ごめんなさい!失礼だったよね!?」
ベルクにやってることだったから当たり前にしてたけど!仮にも成人!ましてや第一王子サマに向かってやっていいことじゃなかった!!
「いやそうじゃない。……そうじゃなくて……その……」
(嬉しい)(もっと)なんて初めての感情を飲み込んでいると、ミチルがバタバタとテーブルの上をしまいだす。
「ごめんね!読書の邪魔しちゃって!」
「それはかまわないがーー」
「ありがとう!やっぱりフォルに聞いてよかった!さっすが長男!完璧王子様!」
「大げさだ」
「……ごめんなさい。あたし、間違えた」
「?」
「完璧王子サマとか長男とか。フォルの背負ってるものを茶化しちゃダメだよね」
「……」
その長男さまはミチルが頭ヨシヨシするのを素直に受け入れている。
「なんかフォルのツンツンの黒髪って知り合い思い出しちゃうなぁ」
「ほぉ?」
「近所にクロって柴犬が居てね?もーお!まっクロでかっこいいのにかわいくって!しかも毛並みがいいの♡ツンツンでごわごわしてて♡この毛質♡フォルそっくりだよぉ♡」
「私は犬か……」
「え?今も犬じゃないの?」
「狼の末裔だ」
頭をこつんと叩かれると、ミチルがおじゃましました!と出ていく。
まだ頬が熱い。胸の奥が痛い。どうして泣きそうになっているんだろう。
(フォルの背負ってるものを茶化しちゃダメだよね)
あんなことを言う女は初めてだ。それから犬と同列に褒めてくるオンナも。
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