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「……次。G結界というワードの解説がないのは意味があるんですか? これはデュカス」


「俗称だしな……正式な名称じゃないのよ。賢者の攻撃魔法としては最上位の技で、空間ごと賢者優位の場に転換させると聞く。でもごく一部の賢者限定なんだ。そして消滅法が何人かの戦闘系にも使えるのに対して、これは生粋の賢者の技、というのもその違いだね」


「これって見たことあるやついるのかな?」


「文献の世界だからね……使用した過去があっても歴史から消されてるだろうし」


「そういうレベルの技ってことだ。──では最後の質問。異世界間移動には大きな法力消費があるはずですが、デュカスさんは今回どうされてるんですか? ──どうやってるの?」


「城自体から回収、と言えばいいのかな。大地と繋がってれば問題ない。問題ないというかむしろやりやすかったりします。年季の入った古い建造物はそれ自体が魔法力を帯びていてすんなりと吸収できます」


「そういうのってS級では当たり前なの?」


「たぶん。他は知らんけど。それにな、拝借って術はどちらかと言うとそこまで大きな魔法力を必要としないんだ」


「才能?」


「才能と経験だね。異世界間移動はエルフだってできるやつはできるんだから。ユニコーンもやってるわけで動物でも可能だ」


「いやユニコーンはちょっと違うと思うぞ」


「そうかな」


 サラがベリルに問う。


「ソミュラスの人はどうしてるんですか?」


「俺たちは異世界間移動を生業としてるから標準の術だよね。どうって通常の移動サークルの応用だよ。消費は大きいけどお前らほどじゃない。この分野に関しては優秀な種族ってこと」


「効率よくできるんだろう」


「効率ってそんなに大事ですか」とサラが訊くと王子はジッポーにオイルを補充する作業を行っている。差し終えてから彼は返答した。


「サラさんが今後伸ばしてくるであろう重要なポイントですよ」


「さて、質問は終わったが、あとはどうすりゃいいんだ?」


「元の場所に戻せばいい」


 ノックがあり戦闘服をまとったクロムが部屋に入ってくる。黒の戦闘服は何やらフル装備みたく至るところがパンパンに膨らんでいた。


 ベリルが一応、王に報告してくるから待っててくれと言い残しクロムと一緒に退室していく。デュカスは気になっていたサラの体調について尋ねた。


「いま体はどんな感じ?」


「体がかるいです。痛みが和らいでます」


「法力が増えるわけではないんだな。回復と治癒に特化した技術か。俺も忘れられん日になった」


「あの王には狙いがあるんでしょうか」


「ベリルから自分の方に引き寄せたかったんだろ。俺は使い勝手がいい」


「うまくやられた感じですか」


「かもしれん」


「秘書役は終わりですか?」


「戦えそうなら病室に戻ればいい」


「病室はごめんです二度と行きたくないです」


「そう。様子を見よう。邪魔になったら邪魔って言うさ」


「ちょっと失敬じゃないすか? 邪魔ってのは」


「めんどうなやつだな。頼りにしてるさ。しかし先が読めん展開なのはわかるだろ」


「デルタ何とかが関わってるから?」


「わるい予感しかないよね」


「あの、王子。フェリルってそんなに有名なんですか?」


「そりゃな。ファウラーもバドゥもうちが発祥だよ。どの世界にも通じる。それにダムドも。使えるやつは少ないけど名は通ってる」


「でも遅れてるともガレオンさんが言ってました」


「まあ変化をよそほどには要求されてないからね」


「よそはなぜ変化が必要なんです?」


「どの世界でも魔法力の総量は減退していってる。これはうちでもそうだけど」


「シュエルはそんな感じしませんよね。体感がないというか」


「よそは賢者会がダウンしてるんだ。つまり統治の力が落ちていると。したがって社会秩序、治安に影響があるわけ」


「へえ」


「まず影響を受けるのは下層だろ? すると民度がじりじりと下がってくる。ゆっくりとでも確実に」


 やがてベリルとクロムが戻ってきて「問題ない」とベリル。


 四人はベリルが作り出した大きめの魔方陣で一緒にバラードへと移動する。時刻は午後六時を越えていた。


 出口であるバラードの城の外へ移動した一行は即座にガルーシュ領が見渡せる国境へと移動する。ハロル地帯と呼ばれる地だ。不毛の地と呼ばれるその地は文字通りの荒れ地であった。茶色の地面とベージュの砂地が視界の殆どを占めている。


 岩場に登り、クロムが空に向けて右の手の平を掲げ銀球魔法を使い五個の球──直径五ミリほどの極小の球──を上空に飛ばしそこからガルーシュ領の空へと弾き飛ばした。


 銀球魔法はポピュラーな技で偵察・索敵に用いられることが多い。むろん攻撃にも応用が可能な汎用性が高い魔法である。今回クロムが用いているのは〈感覚分身〉の技。彼はいま地下亜空間の場所を捉えるべく全神経を研ぎ澄ませていた。十数分の時間を経ると彼は腕組みを解く。飛ばした銀球から情報を得るとクロムは言った。


「少なくとも四つありますね」


「大まかに把握できてるか?」とベリル。両手でガルーシュ領の地図を広げている。


 渡されたペンでクロムは「だいたいですけど」と言いつつ赤い丸を地図に記入してゆく。見事なものだった。


「間違いないな」とデュカス。

「閉鎖できるんなら一つずつ潰していくんだが」


 ベリルが応える。


「閉鎖というか破壊だな。空間操作系の攻撃魔法には脆弱だ。つまり周りの空間に支えられてるからこの支えを崩せばいいわけだ。ただ領土なんで侵略になるが」


「てめえはバラード侵略しといて自分とこは嫌だ、とは言わんだろ」


「いや言うだろ」


「亜空間の中での魔方陣は?」


「基本的には使えん。亜空間作成も連続では限界があるから追い込めば地上に出る、という目算は立つ。元賢者が特別な術を使えばまた別だが」





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