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「まさにそうだと思います。魔法世界だからこそ成立してるんだと思いますね。全然イイ話ではないです。これは話してもかまわないと思うのですが王子は賢者の資質を備えて生まれてきてるんです。つまり──深刻な案件についてはですが、事の本質を見抜く“賢者眼”が使える──


これは王公貴族も権力層も上級国民も、それに一般市民だって嫌なものです。あたしたちの社会はどこであれ虚実入り交じって成立してる。……賢者会だって組織ですから内部の力学で成り立っているはずです」


「都合がわるい存在?」


「ほんとのことを好まない誰にとってもそうでしょう。加えて国民は王子のメンタリティを知ってます。自身の損得や利害で動く人ではないことを。まあ正確には“動けない”のかもしれませんけどね」


「……」


「嫌われる要因のひとつなのはお分かりになると思います」


「なぜ……国民の方々はメンタリティを知っているのですか? 王族と民に接点はないでしょう?」


「元々王宮にいない人だったんです。十代は森や街で多くの時間を過ごしてきた人です」


「ええ? 街にですか」


「護衛は不要ですからね。周りからやめろと言われてやめる人でもなし、街で食事をし街で買い物をしそこで買った服を着て市民の公園でくつろぐ……」


「想像できません」


「学園生活に関してはわるい話しかないです。わるい話のレジェンドです」


「そちらの国では王族も民と同じ教育施設に通うのですか?」


「そういう決まりになってます」


「そこは想像つきます」


 そこでのデュカスが想像つくということである。サラは助かるな、と思った。同時に王子もまたよほどこの人が気に入ったのであろうと理解した。休養の間、あけすけに自身をさらけ出したのだろう。よその世界をいいことに。いや、元々そういう人か。


「あの人、威張らないでしょ?」


「確かに」


「もうその辺は王族らしい威厳がほしいとこだけどああいう人なんで。で、街に出かけるといった行動は王公貴族の世界では敵視されてます」


「ああ」


「いろんなとこから嫌われてます」


 サリア王女は沈黙した。無表情のままの時間が過ぎ、それから声を発した。サラはわけもなく慄然する。


「あなたは仲よさげですけど」


 当惑される問いであった。サラは答えを考え込み、よくよく考えてからそれを体の内部から引き出した。


「……そりゃあ、よくして貰ってますし、先に申し上げた通り師匠のひとりですから」


 相手もこの返答をゆっくりと消化しているように見える。サラにとって背筋に汗が流れた問いだった。特別扱いは誰の目にも明らかなものであり、彼女も組織人として気にしないわけにはいかないところだ。自動的に“デュカス派”に属していることになり、これはよい面もわるい面もある。ほんとうはこうしたところまで話したいという気持ちにもさせられる。


「近しい人からはそれなりに慕われている感じですか?」


「んー……合う人だけ近くに置いてますから、どうなんでしょう。毛虫のように嫌う人もいるわけで何とも言い難いですね。慕われ……んー王子には遠い言葉のように思います、正直」


 サリア王女がにっこりと微笑んだのでサラは内心どぎまぎした。わけもなく圧倒される自分がよくわからない。


「貴重なお話を伺えました」


 サラは心を整えながら王女に言った。


「参考になりましたら幸いです」




           第一部 幕




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