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「今度は私の番のようだ。よろしくと紙に書いてあった。今回は難しい内容だとも」


「へー」とサラ。


「じゃあよろしく」とデュカス。


 アスナケージはポストを棚に置いて中から手紙を取り出すと、椅子に座ってしばし文面に目を通していた。

 そして口を開く。よく響く低い声が室内に響いた。


「質問、疑問が三つ書いてある──読むぞ。前回の時空ポストコーナーで、王子の言葉の中に“追放刑は天界で不評”という一節がありました。サラさんはスルーしましたが、この一節は重要な発言だと思うのです。天界での評をなぜ王子が知っているのか、なぜこの点にサラさんは言及しないのですか? ──という質問だ」


「ああ……それはあたしだけじゃないです。周りの人は薄々気づいてることですよ。王子はどんどん魔法力を増幅していってます。隠してますけど何となくはわかります。ということはどこかで実戦をやってきてる。訓練だけで達成できる増幅量ではありません。つまり他の魔法界に何度も行っていると。これは天界の管理の下でなければ無理な話です。漠然とですが天界と関係を持っていることは推測できることなんですね。ならばその点は黙ってますよ。あたしたちは地上の世界で生きているわけですから立ち入るべきではないと」


「なるほどな。私が感想を言ってよいのか?」とアスナケージ。


「次どうぞ」デュカスは促す。


「……では次。戦いの前日のサラさんと看護士さんの会話の中で“一時間だけ話しましょう”というサラさんの発言がありました。でもこのパートはまるごと飛ばされて翌日の朝に場面は切り替わってます。おかしくないですか? 本筋とは関係のないパートというのはわかりますけど気になります。かいつまんででもいいので読者にどのようなやり取りがあったのか示すべきですよ。──という不満の声だな」


「あたしに言われても……」


 サラの内面ではヤバイとの声が連呼されていた。


「様子を見ましょう、としか言えないな。でも世間話なんじゃないの?」とデュカス。


(ギクッ!)


「べつに俺の悪口でもなかろうし」


(ギクギクッ!)


 様子がおかしいサラに賢者が言った。


「どうした? こわばった顔をしておるが」


 デュカスが私見を述べる。


「本筋はバトルだからバトルを優先しただけでは? このあとで時間を巻き戻した記述があるんじゃないかな」


「……では次だな。三つ目の質問。ひとつ疑問なのは敵役の回想シーンがまったくないことです。ふつうなら悲しい過去といったようなものがあると思うのですが、今回は予定されていないのでしょうか」


 デュカスが答える。


「前回のテーマだったから避けたのではないかと。敵側をサブタイトルにしてたくらいですからね」


「テーマが異なると?」


「ええ」


 そうデュカスが言うと賢者は無言になり、無言だったサラはさらに無言をつづける。


「今回の収穫はその赤いやつの名前が時空ポストだって知れたことですね」


 デュカスはそう言ってこのコーナーを締めた。


        ☆


【前夜の病室 王女サリアとサラ・リキエルのパート】


 ベッドの上で身を起こしているサラは一応、立ち入りを禁じ音声を遮断する結界を室内に張り、それから王女に言った。


「知りたいことをおっしゃってください」


「はい。では、、国民からの人気はどんな感じですか?」


「支持三割というところでしょうか。好かれるか嫌われるかの人ですから全体的な人気は低いです」


「それはなぜ?」


「王族としてはイイトコもありますけど一般社会の常識に照らし合わせるとわるい面が際立つ、みたいな」


「わるい面とは?」


「ああそこはパスで」


「はあ、、王位を譲る話はほんとうですか?」


「将来の話です。賢者会が選挙なんて許すわけありませんよ。王子は国連から切り崩すんだってたまにロビー活動してるようですけど、まだ現実の話ではありません」


「なぜ王位委譲にそこまでこだわるのでしょう?」


「ふさわしい人材がいるからだと」


「その方は人気があるわけですか」


「はい。イケメンで人格者ですね。まあそれだけと言えばそれだけですが常識人ってだけでもフェリル王族としては奇蹟です。王子の気持ちもわかります」


「なぜ選挙を?」


「仮に委譲が実現できたとしても実際の権力が乏しいからです。だから投票による民意を付与したいのです、王子は」


「でも王という立場になれば権力が付随するのでは?」


「フェリルではそうはなりません……この話はここまでです」


「でも王政は王政ですよね」


「形だけの王にはなれますよ。……王子みたいにあれやこれやと政治を扱う能力を他の誰かに求めるのは最初から無理です」


「そうなんですか……」


「そこがおそろしいところでもあります。──だから先代の王は決闘にて排除しようとした──いえ、これは私の推測にすぎませんが、、でもそうとしか思えないのです。……みんな口にはしませんが、デュカス王子はいま王子という立場ですけど事実上の王になってるんですよ。いくつか派閥はありますけどね」


「君臨や表立った支配はしていないが中心にいる、みたいな感じでしょうか?」



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