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ベリルが時空ポストを小脇に抱えて母国に帰投し、ソロスはエリーアス王の元へ赴き、サラとデュカスのふたりは城一階のロビーでコーヒーを飲んでいた。ここが最も広い場所で、かつ最も人の数が少ないゆえに、ふたりにとってお気に入りの場所となっている。
国に貢献した人物とはいってもふたりはよそものである。豪勢な客室や王族・政府関係者の居る場は落ち着かないのだ。
むろんエリーアス王には自分たちとって自由度の高さが死活問題なのだということは説明してある。なかなか理解して貰えない特性だがデュカスは粘り強く説明を行った。しかし国王はまだ納得はいってないような顔をしていてデュカスは困惑した。結果的には諦める道を彼は選んでいる。
時刻が四時を回った頃、キース中将がホールに姿を見せる。
彼の話はふたりにとって意外なものだった。
「ガルーシュの国務省から連絡がありまして。ペルージュの派兵を抑止してくれた件、両名にお礼を述べたく参上したいと。しかし国王は消極的です。違和感があるから拒否した方がよいのではと申しています。あなた方への申し出ですからあなた方の一存で決めて頂いて結構です」
「違和感あるな。妙だ」「ですね」
「向こうにとって俺たちは敵だ。特にサラは大打撃を与えている。そのままはいそうですかとはならんな」
「報復の機会の可能性高いですよね」
「俺は戦える状態にないから相手をするのは君だ。どうするね?」
「どんな相手が予測できますか?」
「デルタの残党かもしれないし倒したやつの親兄弟、恋人かも。最初の戦いで死傷者も出てるだろうからそこからかも」
「降りかかってくる火の粉は自分で払いますよ」
「でも回避できるものなら回避してもいい。切りがない」
「侵略したのはガルーシュなのに」
「向こうの論理ではバラードが先だから」
キースが言った。
「無視していいですよ。個人的には無視をお勧めします。そもそもサラさんの状態だって本調子にはほど遠いでしょう」
「君が決めていい。俺も消極的だ」
「本心で言ってます?」
「俺は俺で近々何かあると予感してる。そっちに神経使ってる。正直ガルーシュはわずらわしい」
「何かとは」
「何かとしか言えん。これは君には関係ない部分だ」
「……相手の思惑に乗ってみたい欲望が込み上げてきてます。これがあたしの本音です。体が熱くなってる」
「危険だな」
「かもしれません」
「なんにもならないと思うぞ」
「かもしれません」
「ただ虚無があるだけ……かも」
「王子。あたしはまだその虚無を味わってないんですよ。その先のステージを知りたいんです。あたし自身をもっと知るために。──キースさん。あたしはその申し出を受けたいと思います。警戒態勢の準備くらいはなさって下さい」
「国王にそう伝えましょう」
「いいの?」
「受けて立ちます。それにほんとにお礼言うだけかもしれませんし」
「付き合うよ」
返事を出すとガルーシュの使者はすぐにバラード城を来訪した。ふたりが待つ来賓用の応接間に現れたのは国務長官とその秘書のふたりだった。長官はシリングという初老の男で秘書は二十代後半に見える。ふたりとも魔法使いだが大した法力量ではない。が、賢者による欺瞞が施されていた場合はデュカスでも見破るのは困難である。警戒は怠れない。
挨拶のあと国務長官が述べた。
「ペルージュの派兵をとめて下さったこと、有り難く思います。深く御礼申し上げます」
デュカスが受け取る。
「発端はビオレッタ姫ですので。あとの流れはたまたまです」
「しかしあなたがベンゲル王に見送りを進言しなければどうなっていたことか」
「たまたまです」
四人がテーブルにつくと長官の左隣に座る秘書がサラに言った。
「サラさん。お体はどうですか?」
かなりの美形である。モデルでも通用するであろう高いレベルだ。というかそれゆえに採用されたのか、とサラは内心思った。全体の雰囲気とメイクの濃さからぱっと見でこいつの中身はビッチだとサラは勝手に決めつけている。
「もう回復してます」
「聞くところによればアルメイルに対してはおふたりで対処なさったらしいですね」
「はい。私が彼の法力を削り、王子が仕留めました」
「闇の魔法で。殿下は戦いはしてないそうですね」
「はい」
「アルメイルは無念だったことでしょうね。そのような汚いやり方で殺されるとは。……サラさんとの勝負はアルメイルの勝ちであったのは本当ですか?」
「その通りです」
「その点に恥ずかしさはお感じにならない?」
国務長官は黙っていた。
デュカスが事務的に冷たく言い放つ。
「時間の無駄です。用件を言いましょう」
国務長官がやはり事務的に返答した。
「恩着せがましいことをされてもこちらはただただ不愉快なだけですな。むしろかえって我々は煮えたぎる憤り、凄まじい怒りに溢れております。理不尽な成りゆきに対して」
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