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「消滅法という、攻撃魔法では最上位の魔法を使いこなしますから、これが戦闘系への威嚇となり……何かのきっかけで反体制勢力に牙を剥きますから、ある意味恐怖政治的なところもあるんでしょう」


「シュエルの黒歴史だな。ほんとに抹殺寸前までいったからな」


「あと最高権力機関ですから社会に対して数々の規制を行っています。まず銃火器の類いの使用、所持の禁止があります。戦争は認めていますが道具は剣と槍と盾まで。弓は狩りでは合法です」


「内燃機関を持つ乗り物の規制は厳しいな。公共交通は認めてる」


「一般社会へのテクノロジー規制はいろいろとありますね。……引退したり除籍されると元賢者となります。あとは弱点もあるってことですかね。倫理と戒律が彼らの矜持になっていてそこから外れることは許されないという話です。伝聞ですけど」


「伝聞じゃなしに実際そうだよ。例えば異世界間移動については俺は大地の魔法力を拝借するけど、賢者はそういうのはだめなんだ。自分の法力のみで行わなければならない。それが倫理なんだね。彼らは天界と地上のはざまにいる種族で自由な立場じゃない」


「その意味では賢者会は管理職なんですかね」


「よくわからん。自治体なのか下部組織なのか。例えば俺の追放刑は天界で不評だからな」


「まあ賢者についてはこの辺で。で、次は── サラさんと国王の会話のなかで国家機密という言葉が出てきました。この国家機密とはなんでしょう?」


「そんなこと言ったの?」


「前回王子が報酬を受け取らずに去ったのはなぜかと問われまして……これは機密につながる話だと判断してその場はにごしました」


「ああ……まあそうだな。でも読者に隠すほどではないから君の見解で言いなよ。俺は黙ってる」


「……要はうちの王子の弱点につながる話だからです。王子は特異体質で真価を発揮できるのは複数相手での戦いなんです。複数であれば相手の魔法力を吸収したり利用したり自在に扱うことができます。でも一対一ではそれができません。常にリミッターが掛かった状態での戦闘になる。……魔王軍との戦いを例にとれば対峙した時点で魔王とその軍から法力を得られるわけです。──つまりこれが報酬ですよ。魔法力、そして戦闘の機会が報酬なんですね。うちの賢者ミュトスは王子の魔法力について“ブラックホール型”と評しております── しかし吸収される個々人にとっては疲労と区別がつきませんからそれがわからない。また王子は体内にある亜空間に保存する手法をとってますから王子を見ても外から増幅分はわからない、と。……王子は言わば〈対軍隊専用の生物兵器〉みたいな存在なんです。だから一対一というシチュエーションに置けば押さえ込める。これが弱点です」


 聞き終えてデュカスは「へえ~」とこぼした。


「以上、賢者ミュトスさんの解説を元にサラ・リキエルがアレンジを加えてご説明致しました」


「しかし……まず魔法の危険性について語らないと誤解されそうなんだが」


「いやそういうのは“知りたくない情報”じゃないですかね。そういうのは新人を出してレクチャーするとか人間界をよく知らないエルフにレクチャーするとかでやんわりと伝えていくやり方の方が適切ではないかと」


「若いコは言うことが違うね」


「そんなに違わないじゃないですか。四つだけでしょ。──病室なんですからタバコを取り出さない!」


「怒んなくてもいいだろ」


「怒りますよ。看護士さんがいたらビンタされてますよ」


「で、話は変わるけどガルーシュから決闘を申し込まれてるんだが、どうする? 代表ひとりを選んで勝者が係争地獲得。君の意志を確かめたいと国王は言ってる。日時とかの希望を言ったらいい」


「え……そんな話が進んでるんですか」


「よほど向こうは自信があるんだろう」


「今日の感覚が消えないうちにやりたいです」


「向こうはノーダメージのやつが出てくるんだ。冷静になって考えろよ」


「おそろしく冷静ですよ」


 そこであっ、とサラは声を挙げた。


「戦う前にベリルさんって人が来て、敵の情報を教えてくれました。忘れてました」


「あとで礼を言っとく」


「また来てくれますかね」


「いや、次は来れないと思う。推測だけど」


「あたしは明日でもいけますよ」


「医者の判断を待った方が」


「繰り返しますがあたしの体はあたしがよく知ってます」


「……では明日の正午、でいいか? 明日になって体の痛みが出てくるんじゃないのか?」


「OKです。心配性ですよ王子は」


 デュカスは椅子から腰を上げた。いい予感などなかった。胸のなかでざわざわと不気味なものが渦巻いている。彼にとっても予想外のことだったのだ。ガルーシュにとってのもう一枚のカードは。


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