26
「次にいくか。──ファウラーとバドゥという単語がありました。解説をお願いします。これはサラか」
「俗称で放出系とも呼ばれていますが──古典的な攻撃魔法で遠隔攻撃用がファウラー。光の帯だったり光線だったり、これを球状にして光弾にしたりします。バドゥはこの遠隔攻撃の法力を外に放つのではなく、体に留めた上で使います」
「ところがバドゥの定義は難しい」とクロム。
「そうですね」とデュカス。
「はい。定義が難しいのは物理攻撃との兼ね合いが明確ではないからです。歴史的な違いがあって、ファウラーは元々は賢者の技で賢者が発展させてきたのに対し、バドゥは戦闘系の世界で脈々と改良されながら発展させてきた、という違いがあるんです」
「体に留める、というのに説明の無理があるよね」デュカスはそう言った。
「ふつうのバドゥ、あたしのバドゥは体に纏うバドゥです。対象を切ったり裂いたりといった効果が強い。拳に集中させると拳が光弾になります。これはフィールドで防御できます。一方で王子のバドゥは物理攻撃になってますからこちらはシールドで防御する必要があります」
「基本的にフィールドが遠隔攻撃用の防御で、シールドが近接戦・物理攻撃用の防御だからな」とベリル。
「打撃力への転換……なんだよね。より深いダメージを与えるためのバドゥでいいのかな?」
「これがねえ、何度言われても理解できないんです。やれったってできない」
「俺のタイプのバドゥはあんまり使わないのよ。俺だって使うときは殆んど普遍的なバドゥですよ」
「ちなみにソミュラスではデュカスのバドゥって呼んでる。みんな研究中。誰もできないから」とクロム。
「難しい話だな」ベリルは言った。「この辺にしよ。キリがない。そもそもデュカスがわるい。“体得”の分野って言えばいいじゃねえか。言語化できないし仮に言語化できたらその時点で対応策の道筋が見えてしまう」
次の質問を読むべく彼はしばらく手紙を見つめていて、なかなか口を開こうとしなかった。しびれを切らしてデュカスが問うた。
「どしたの?」
「……これは頭が痛くなる質問だ。……どうしたもんかね」と言って手紙をデュカスに渡す。
「……地獄のような質問がきてる」
そうデュカスは驚いていた。
「それはスルーでよくないか」とベリル。
サラとクロムは(なになに?)と不思議そうな顔をしていた。
「ま、でも読者の声、だからなあ……」
「SFにならないか? 俺たちには魔法じゃなしにリアルトランスというか」
彼は空間が歪む、という意味合いで述べている。
「あたしが読みましょうか?」とサラ。
デュカスが言った。
「待て。誰が読むのかは検討した方がいい。答えるのは俺の役目になるから、三人から選ぶ」
「俺の直感ではクロムが適切ではないかと。中心からは遠いから」とベリル。
「ああ、確かに」とデュカス。そう言って手紙をクロムに渡す。内容を読むクロムの顔はみるみるうちに当惑の表情と変化した。
「これ、だめですよ。賢者とかに相談しないと俺たちには手に負えない気がします。メンタルに関わる内容じゃないですか。狂気を感じざるを得ない」
「アスナケージさんは入院中だしな」とデュカス。
その時、部屋に護衛のひとりキース中将が入ってきた。後ろに賢者服を纏った初老の男が見える。
「みなさんどうも。デュカスさん、この方がお話があるそうなのでお連れして参りました。が、国王によれば話を聞く聞かないはデュカスさんに決めさせるべき、とのこと。断ってもかまいません。この方はガルーシュの担当賢者ゴルトーさんです」
「本日の夕刻、賢者会本部で終戦協定の調印式が執り行われる運びとなった。その打ち合わせに来ておったんだが……せっかくなんでお主に会っていこうと思うてな」
「はい。なんのお話でしょうか」
「先に手を出したのはバラード側だ、という話になる」
キース中将が立腹の声を挙げ、室内に彼の声が響いた。
「そのような用件ならお引き取り願いたい! 賢者とはいえ無礼な!」
「そうかな? 事実を述べるだけなのだが。都合がわるいか?」
デュカスが静かに述べた。
「……伺いましょう。みんないて問題あります?」
「いや。込み入った話はせん」
「だそうです。キースさんも座ってください」
賢者ゴルトーとキース中将がテーブルの席につき、賢者は語り始めた。
「ガルーシュ政府の視点での話だ。バラードは長年我が国に対して経済侵略を行ってきた。経済界で勢力を拡大し、一部とはいえ親バラード派まで作る有り様だ。……ここまでなら目をつぶるさ。しかし近年は政治にまで手を出してきている」
「資金援助的な?」
「証拠はない。しかし親バラード派は増強される一方だ。例えば農業といった特定の分野だと二割は占めていそうな勢いがある」
「二割って大したことないじゃないですか」とサラ。すぐにデュカスが返す。
「ばか、二割はどでかいよ。全体に作用するに充分な割合だよ。……それはともかく現状がそうなっているのは国民が自然にそうなっているからではありませんか?」
「デュカス、私は政府の視点で語っている。市井の話は抜きだ」
「いや、バラードの製品や商品が広く流通すればそのイメージは浸透するでしょう」
「そういうレベルではない」
「王政なんですから要所を押さえればいいと思うのですが」
「その王族を取り込んでおるのだ。ニコラス王の弟は親バラード派の隠れた支援者なのだ」
「ああ、兄に対してってことですか」
「そうだ」
ふたりが沈黙し、ゴルトーはデュカスの言葉を待っている。
「バラードの経済侵略ではなしに、バラードが内政に利用され巻き込まれてる、という話ではありませんか?」
「同じだ。経済侵略がなければこうはならなかった」
キース中将が切って捨てるように言う。
「とても賢者のご発言とは思えませんな。事実というから何かと思ったら被害妄想の勝手な言い分にすぎない」
「デュカスに話しておる。……私は賢者眼で何度かエリーアス王を間近で見てきているのだ。わかるなデュカス。これは言いがかりではない。戦略のもとに現実がコントロールされてきているのだ」
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