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デュカスは静かに返答した。
「……はい。お話は伺いました。ことが済んで国に帰ってからいまのお話は考えてみますよ。……で、その話はここで終いにして、ちょっと付き合ってくれませんか。我々の難儀な課題に」
「課題?」
「かくかくしかじか──ではなく、まあ読者からの質問に答えるコーナーがあるのですが、いま対応に苦慮する難題に頭を抱えているのです。我らの頭脳では限界があるのでお助け頂きたい。いや回答自体はシンプルで難しくはないのですが、回答することが果たしてよいことなのか。スルーした方がよいのではないか、ということです」
そう言ってデュカスは手紙を渡し、問題の箇所を指差した。
しばらくゴルトーは手紙を眺め、それからテーブルの上の不思議な物体に視線を移してこう言った。
「その赤い箱の名称は?」
「時空ポストらしいです」
「時空を越えた通信機器……ということか。魔法の一環、ではだめかな? 時空を越える魔法が使われていると。その解釈で乗り切れまいか」
「ひっくり返っちゃいませんか」とクロム。
「ノウエルの資本主義がひっくり返るかね? 私は賢者なのでノウエルの情報はある程度得られる。いつも不思議に思うところだ。気にする必要があるだろうか?」
クロムは手を出してゴルトーから手紙を受け取り、彼が文面を読み始める。
「──私の疑問はこの時空ポストコーナーの存在意義についてです。なぜページの下に解説欄を設けたり解説のページを設けたりといったスマートな方法をとらないのでしょうか?」
デュカスが応じた。
「元々は森羅万象の出来事を扱うエッセイのコーナーとして設けられていて、本来なら裏テーマとなっていました。サブタイトルを〈時空ポストとともに〉にしてたくらいですからね。しかし客観性がないため解説に切り替えたという経緯があります。これは可能なかぎり読者に対して親切であろうとした結果です。
──べつの裏事情もあります。本来は情報操作・情報統制に対抗する試みとして位置付けられていたものだったのですが、二月に始まる軍事侵攻によってネガティブな意味合いでは扱いづらくなったということです。むしろここではニホン社会のべらぼうな情報操作能力の高さをポジティブに扱う方が適切な状況になってしまった。結果的には軍事侵攻以前に書かれた部分の多くは削除してあります。我々はフィクショナルな存在ですがそれでも現実と無縁ではいられないということです。物語のなかで物語を体験する我々は、、我々もまた読者のみなさんと同じ立場にあるのです。
──以上です。ご静聴ありがとうございました。今回の時空ポストコーナーはこれにて終わりにします。あと第二幕もここで終わりです」
演説は終わった。
ベリルとクロムがコーヒーをすすり、サラは席を立って食事を注文しに厨房へと向かい、キースと賢者は無言で立ち上がって退室していった。
デュカスは? デュカスはタバコを取り出して一服し始めました。バラードではまだ食堂については禁煙ではないんですね。
第二部・幕
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