18

(アンダール何とか? ソミュラス? なに?)とサラが当惑する間に、バラード城内の通路から移動サークルを介して異世界へと体を移すと、そこはどこかの建物の中であった。


 天井や壁や廊下の外観は豪華でありどう見ても宮殿や城の中と見受けられる。そして衛士たちの姿がある。彼らは一斉にどよめき、剣を抜き、怒号が響く。しかしデュカスが手を上げて「俺だよ」と気軽に声をかけつつ彼ら十数名に“縛”を掛けると辺りは静まり返った。そこでサラも気づく。ここはおそらく王の間の前なのだろうと。巨大な扉がそばにあり、デュカスは歩み寄ってそれに右手をあてると扉を開いてゆく。


 デュカスにつづいて室内に足を踏み入れるとサラは玉座に座る人物を視界にみとめた。 その人物はデュカスの姿を見るや立ち上がって激昂した。


「勝手に来るな! 小娘まで連れて来おって! なぜ城に入って来れる!? ここは厳重なセキュリティが──」


 デュカスがにこやかに述べた。


「一度来てますからね。はじめましてレールダム王、突然お伺いして申し訳ございません。落ち着いてください」


 王冠を頭に乗せ、きらびやかで厳かなマントを纏う人物はまだ怒りをたぎらせている。


「愚か者が! 何をぬかすか!」


「ご相談があって参りました。インディボルゲの尋問をさせて頂きたいのです」


 すると王は急に鎮まった。


「……なんだ。そんなことか。べつにかまわんが。やつを捕らえたのはお前の手柄だしな。拷問するのか」


 そう言うと玉座に座る王である。


「いえそこまでは考えておりません」


 血相を変えた高官たちが王の間になだれ込んでくる。その群れの中にベリルとガレオンの姿もある。ふたりもまた青ざめた表情をしている。王の声が響いた。


「殺さなければ好きにしていい。何を引き出すのだ?」


「首謀者の居所かもしくはそれに繋がる情報です」


「ほう、誰の依頼で?」


「リンドロラウの賢者会です」


「なるほどな。お前はほんといろんなところに利用されるなあ。つらくはないか?」


「よい方に考えることにしています」


「国連に利用され賢者会に利用されガレオンに利用され……ま、娘の手前黙っとくか……それでいいのか?」


「国益に結びつくことです」


「ふん、お前が言うとそれらしく聞こえるわ。……デュカスよ、デルタ・ランブラを知っておるか?」


「いえ」


「近年拡大中の独立系軍事組織の名だ。各魔法界から選りすぐりの戦士をスカウトしておる。我らも被害者だ。四人引き抜かれておる。わかると思うが、莫大なコストをかけて育てたにもかかわらず完成品を奪われておるわけだ忌々しい! やつも元々は精鋭のひとりだった。裏切りはこたえたよ。やつは以前はああではなかった」


「とするとそのデルタ・ランブラが裏で主導している可能性もあるわけですか」


「わからん。政治闘争やクーデター請け負い業を兼ねているかもしれぬ」


「厄介ですね」


「関わらん方がよいぞ。といっても遅いか。……ところでなぜ娘を連れてきた」


「ひとりでは危険ですので」


「ああ、戦えんのか」


 そう言って少し考え込むレールダム王。しばらくすると高官たちに向かって言った。


「……ガレオン、あれを用意してやれ」


 初老の、いかにも政府の重鎮といった人物が答える。


「よいのですか」


「いい機会だ。デュカスに我らの本質を教えておいて損はない」


 ガレオンと呼ばれた男が何かを取りに退室してゆく。じばらくすると戻ってきてアタッシュケースのような頑強なケースをデスクの上に載せる。王が言った。


「戦時に備えて備蓄してある貴重なものだ……詳しくは話せんが、そうだな……“バッテリー”のような働きと言えばよかろうか」


 ガレオンがケースを開けて中から小箱を取り出す。


「よく見ておれデュカス」と王。


 ガレオンが小箱を開けると何やら白い球が見える。直径七センチほどの手の平サイズの球だ。わずかに光を称えたその球を取り出し彼はサラに手渡し、指示を出す。


「手の平に乗せてじっとしてろ」


 流れ的に反駁の余地はなく、サラはとりあえず指示に従い右の手の平に白い球を乗せる。不安に駆られているサラがデュカスの顔を見ると、我が王子は目線で“大丈夫だ”と伝えてくる。流れのまま身を任せることにしてじっと待つと、するっと球が右手に吸い込まれていった。「ほう、順応が速いな」というガレオンの言葉が遠くに聞こえる。


 意識が薄れるのを感じたがそれはつかの間のことですぐに回復する。じんわりとその力は全身に広がっていった。


(なにこれ……?)


 サラは戸惑いながらも自身に起きている現象を受け入れていた。体内にある法力の核が満たされていくのを感じる。


(力が湧いてきてる……! 不思議!)


 デュカスもまた感嘆していた。彼から見てサラは七割くらいは魔法力を戻しているように見受けられた。複雑な心境である。善きことなのか悪しきことなのかわからない微妙な技術に思える。


 王が誇らしげに言った。


「瞬時に回復を可能とさせる。それなりに治癒効果もある」


「反動などは?」


「ふはは。そこを怠ると思うか? 長年の試行錯誤の末の技術だ。まったくないとは言わぬが微細なものだ」


 ガレオンが補足した。


「数日後にがっくりとくる」


「余計なことは言わんでよい」


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