19

「凄い技術ですね。見事です。ありがとうございましたレールダム王」


 サラもつづける。


「どうもありがとうごさいます」


 王は満足した様子でにんまりとし、サラを見据える。


「娘、今日のことは忘れるでないぞ」


「は、はい……」


 サラは王の得も言われぬ迫力にたじろいでいた。


 デュカスが問うた。

「インディボルゲですが、彼をどうするおつもりですか?」


「矯正教育を施して様子見する。あの戦闘力は惜しい。……まあインディボルゲの件は褒めてつかわす。娘の方もな。よう倒した。こちらとしては懸案事項だったのでな。なあ、デュカスよ……この先我らとお前にはいろんなことが起こるであろう。時には対立もな。が、覚えておくことだ。最終的にどちらを選ぶかとなった場合、我らはお前につく。このことを頭に叩き込んでおけ」


「はあ」


「信じておらん顔だな」


「いま会ったばかりではありませんか」


「賢者眼を使わんのか」


「このようなシチュエーションでは使いません。礼を欠くでしょう」


「はは、そうなのか。不便なものだな」


「不便ですよ……ここの賢者さんとて滅多に使わないでしょう? 同じです」


「不便か。ま、ともかくここへ来るときはガレオンかベリルにひと言言ってから来い。肝を冷やさせるな。ガレオン案内してやれ」


「はっ」


 歩き出すガレオンにデュカスとサラがついてゆく。


 三人が王の間を退室し、しばらく歩いたところでガレオンが床に移動サークルを描き出す。サークルで違う建物に移動するとガレオンがそこで初めて立腹した声を発した。


「むちゃくちゃするでない」


「急がされてまして」


「娘、名は」


「サラ・リキエルと申します」


「サラ、あとでこやつを叱り飛ばせ」


「えーあたし部下ですし」


「道理が外れたことなら部下であろうが何だろうが」


「ガレオンさんが叱ればいいじゃないですか」


「国務大臣は外交が職務。一国の王子を安易には叱れぬ」


「だめですよ王子。来訪は手順を踏まないと」


「踏んでたらあの王は逃げてるよ。前回は隠れて会えなかったんだ」


「その物言い! 国の外でやれ!」


「ほんとのことではないですか」


「大概にしろ! ここは国の中枢。敬意を──」


「払ってたでしょ」


「サラ、こいつを何とかしろ」


「もー王子がわるいんでしょ」


「外交で来てるわけじゃないだろ」


「着いたぞ」


 視界にはほぼコンクリートしかない極めて無機質で殺風景な空間だった。堅牢な金属製の扉だけが存在感を示している。


 デュカスが言った。


「サラは外で待ってて」


 その分厚い扉を開いてふたりが部屋に入ってゆく。しばらくするとガレオン国務大臣が通路に戻ってきた。手にはスカイブルーの箱を持ち、「母国のタバコだとくれた」とサラに彼は言った。


「ああそうですね。売り上げ一位のやつですね。あたしは吸わないのですが」


「インディボルゲはどうだった?」


「え? 強かったです。途方もなく」


「そのうちお前も有名人になっていくな」


「そうなんですか?」


「上層の繋がりは年々強くなっておってな……情報を共有せねばやっていけぬ時代になった。まあシュエルはそこのところ遅れておるが」


「遅れてるのですか」


「いいのかわるいのか。例えば異世界間ハーフなど他の世界ではもう当たり前だ」


「なぜです? 簡単には移動できないはずです」


「業者がおるのだ。専門の」


「へえ」


「また裏で政府が奨励もしておる」


「目的は人口とかですか?」


「それもあろう。が、いちばんの理由はハーフが魔法力に優れる例が多いからだ。弱い世界はそうやって力を求める。口ほどに簡単なことでなはないが大きな法力をまず求めてしまう」


「あら、あたしもその例なんですかね」


「どうだろう。私の専門外の話だ。だがフェリルにて特別扱いされている魔法士の噂はここにも伝わっている」


 ガレオンはタバコの封を切って言った。


「お前だったんだな」


 用意された狭い部屋で待っているとシンプルな囚人服を着たインディボルゲが刑務官に連れられ姿を見せた。デュカスから見ると彼の魔法力は回復しておらず肉体も深いダメージを残したままだ。刑務官は外で待機し、ふたりだけの再会の場となる。デュカスが知人に会ったように挨拶する。


「こんにちは」


「何の用だ」


 警戒感を漂わせ、しかし彼に敵意はなかった。ある程度予期していたことなのだろう。


「話をしに来ました。聞きたいことがありまして。ボルダゲールの居所について何か知ってることがありましたら教えて頂きたい」


「話せば解放してくれるのか」


「それは無理です」


「俺が話すと思うか? 拷問か?」


「いや……自白させるマホーもあるけど消費がどでかいんで使いたくないし、無理強いしてまで情報を得ようという気はないです」


「じゃあ何しに来たんだ」


「ですから話をしに来たんです」


「なら簡単だ。居所など知らん。やつは誰にもわからんようにして移動しつつ潜んでいる。護衛をひとり付けているようだからそっちの気配を探ったらどうだ? 俺に関わるな、不愉快だ」


「手がかりがあなたくらいしかないんですよ」


「ま、それはそうだろう。……そもそも別行動してたんでやつのことは知らんのさ」


「ボルダゲールの狙いはバラードの機密なのでしょうか」


「みたいだな。それを私怨を晴らす復讐に利用したいということだろう。たぶん」


「あなたは傭兵だったんですか」


「傭兵でもあるが、アルメイルを含め傭兵たちの監督のような立場でもあった」


「もったいないですね」


「お前に何がわかる」



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