50 後日談
午後四時。国王との別れの挨拶を済ませたデュカス、サラ、ソロスの三人は城の一階ロビーでこれからの予定を話し合っている。
デュカスはサラに訊いた。
「買い物とかしたい? 君への褒美で王族用の無料パスを貰ってる。俺も貰った」
「……フェリルで使えないじゃないですか。換金できる貴金属がよかったのに」
「遊びに来いよってことでは? これはこれで経済効果があるしな」
「王子が保管しといて下さい。どのみちひとりでは来れないわけですし。あたしはいま買い物よりは酒が飲みたいです」
デュカスは観光マップを取り出して言った。
「まずは食事をとり、それから繰り出そう」
デュカスの容姿は映像と写真で報道されているため付け髭と眼鏡で変装。サラは名と女戦士とだけ記事では伝えられており顔はわれていない。一応魔法で三人とも街に馴染むよう衣服は変更することにした。旅行者を装う形だ。デュカスはコットンのジャケットにデニム。サラはフェイクレザーのブルゾンに黒デニム。ソロスはゆとりのあるカジュアルなスーツ。街に出向いた三人はレストランでかるい食事をしたあと観光マップを開いて次の行き先を調べる。
彼らはサラのリクエストに応じて庶民的なバーを探すつもりでいたのだが、探すまでもなく三人は賑わう一角を見つけた。観光の要所でもある地元民で溢れ返る通りには左右にさまざまなバーが林立している。
三人はサラが目に留めた立ち飲みバーに入ってゆく。そのバーでサラはワインをがぶ飲みし、年かさの男連中のなかでわっはっはと笑い、笑い疲れるとぐったりとし、しまいにはデュカスにおぶられ店を出て、その背中で眠りこけるのだった。
近くに広大な広場があったので彼らは酔いを覚ますために立ち寄る。古い石畳のスペースに近代的なオブジェが散りばめてあり、整備の行き届いた空間だ。デュカスとソロスは長いベンチに距離をあけて腰掛け、一服する時間を設けた。時刻はもうすぐ九時になろうとしていた。宿をとりましょうかとデュカスがソロスに提案し、そうだなと答えるソロス。仕切り直してフェリルに発った方が適切なのではないかとふたりは意見が一致していた。ハードな一日となるからである。サラは目を覚ましはしたがぐったりとして隣のベンチに寝転がっている。
ソロスが言った。
「最後に観光できてよかったな」
「なかなかこんな機会はないです」
やや遠くからサラがつづいた。
「うん、なかなかこんな機会はないれす」
「明日どこへ移動するのだ」
「特務機関のビルの前……です。で、ビルの中で身仕度をして賢者会本部へと。……事前に担当賢者のミュトスと打ち合わせをやった方がいいかもしれませんが」
「同行してくれるのなら助かるな」
やや遠くからサラがデュカスに尋ねる。
「あたしは?」
「君は寮で休みなさい」
三人は宿を探しにベンチから立ち上がり、夜の風のなか石畳を歩き始めた。
後日談:一ヶ月後、バラード王家の三女サリア姫はお忍びでフェリルを訪れた。サラの案内で街に繰り出しブティックを回り、ふたりは一緒に衣服や靴を購入し、楽しいひとときを過ごした。
来訪についてエリーアス王は乗り気ではまったくなかったのだが娘の説得に折れる形で許可を出していた。一方、ノウエルに戻っていたデュカスもまた消極的ではあったものの、そこから受け入れの許可とサラの臨時休暇をしぶしぶ認めた。
買い物を終え、たくさんの袋を抱えた彼女たちは立ち寄ったカフェでさまざまな話をした。多少難しい話も交わした。異世界間の友好はどうあるべきかなど。そんな会話のなかで、サラはサリアにこう言っていた。
ふたりだけの親善外交ね、と。
〈オシャンティな魔女と呼びな〉完
オシャンティな魔女と呼びな 北川エイジ @kitagawa333
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます