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 身長よりも長い大剣が振るわれ、戦闘服の男が躍動する。男と大剣は暴風となって大地を駆け巡った。その太刀筋は視覚から時折消える。悲鳴と歓声が同時に響き渡っている。


 サラは王に声を掛けた。


「国王」


「まだだ」


 考えはわかる。眼下で戦う自軍は──最初からその第一陣は全滅が前提なのだ。できるだけ敵を消耗させるために。少しでも、来たる援軍の勝利に貢献するために。


 サラの怒鳴り声が響いた。


「国王!!」


「そうがなるな。わかった、行きたまえ」


 怒りのままに移動の陣を地面に張り、サラは飛び込んでいった。


──ばかやろう!

  この天才に何もかも任せろってのよ!


 アルメイルは周囲のバラード兵をあらかたなぎ倒したあと「ふう」とひと息つく。そこで彼は身を固めた。前方に魔方陣の起動がありつづいて大きな魔法力と威圧される存在が現れたからだ。情報は得ていたので見当はつく。


 砂塵のなかからひとりの若い女が姿を見せる。女は黒い戦闘服を纏っている。アルメイルは右手を上げ軍に合図をした。隊長が退却の声を挙げ、手筈通り兵士たちは戦闘をやめ退き始める。なかには負傷したバラード兵を人質として連れていく者もいた。

 アルメイルから十メートルほど距離をとり後方に位置するガルーシュ軍である。


 散らばっていたバラードの兵たちも状況を理解し同じようにサラの後方へと移動していく。確約はないものの援軍が来るという話は聞かされていた。援軍が若い女と知って落胆する人間はひとりもいなかった。なぜなら恐怖しかなかったからだ。


 サラを視界に捉えた瞬間、バラードの兵たちは全身に震えが走っていた。こんなものが世の中にあるのかと。理性では援軍だと理解できてもサラから逃げ出したかった。

 と、ガルーシュ軍の戦闘系魔法使いの誰かだろう、火炎魔法がサラに叩きつけられる。魔法自体は見事なものであった。燃え盛る赤い炎がサラの肉体を包む──


        ☆


   【 ──現在── 】


 互いに低く構えをとるアルメイルとサラ。 対峙しているだけで無数の透明な拳がふたりの間の空間で交錯していた。周囲の空気が震えている。


 動いたのはサラだった。揺らめいて、次の瞬間には打撃の射程距離につき、右の正拳を相手の胴体へと放つと、それをかわされてもつづけざまに左右の拳を打ち込んでゆく。拳のひとつ一つに攻撃魔法が乗せられており当たれば重い衝撃波が全身に響くのがわかる危険な打撃である。


 ブロックは可能だが防御の魔法を乗せた腕や脚でなければ意味がない。防御に振れば攻撃力は低下する。相手が防御を優先させていることがわかるサラは怒りをたぎらせつつも落ち着いていた。こいつの攻撃はあたしには当たらない、という自信もある。パワー差をまったく気にも留めないサラは止まることがない。


 アルメイルは最初から全開だった。魔法力の大きさ自体は自分が上である。しかし相手から受ける威圧感は初めて味わう質のものだった。体の芯が震える威圧は記憶になかった。圧で後方に押されるような錯覚さえある。


──これがフェリルか。


 魔法使いとしてアルメイルは体感する圧にこれまでの自分の常識が揺らぐのを当惑とともに感じざるを得なかった。なにより魔法の核がおかしい。“人の使う魔法力”として整っていないのだ。荒くれのエネルギー体が無秩序に変化しつづける核である。こんなことはありえようもない。こんなものは初めて接した。


 相手は人間ではなかった。


──といって焦ることはない。一撃でよい。一撃の直撃で勝負は決する。


 傭兵としてのアルメイルの心理に動揺はなく、彼は荒くれ魔女の打撃をかわし、さばいてゆく。しかし限界があった。こちらの体術を把握されつつある、ということがわかる。 飛んでくるフックやショートアッパーの精度が上がっている。こちらは余裕がなくなってきている。いや、そもそも反撃の間は最初からなかった。スピードに翻弄されるばかりの戦闘である──


 被弾覚悟で彼は左のミドルキックを放った。体重を乗せた、いかにも重い打撃である。相手をなぎはらうような威嚇にも見えた。かわしたあとすかさずサラは反射的に横へと回りアルメイルの軸足、右の膝関節の裏側へ右のローキックを放つ。ドッという低い音とともにサラの足が標的に食い込む。つづけざまに渾身の右フックがアルメイルの背中──みぞおちの裏側へと打ち込まれた。クレーターが背中に広がる打撃であった。衝撃波が完全な形で届く直撃。しかし、アルメイルにとってここまでは承知の展開──渾身の打撃は直後に隙を生む。


 右の裏拳が飛び、サラの顔をかすめた。衝撃波はサラの脳を揺らしダメージを与える。瞬間サラは動きを止めた。腕をクロスする防御はした。しかし防御の上からアルメイルの左フックが直撃する。物理的な打撃力と衝撃波が同時にサラの内臓と骨に響く。防御の魔法はサラの命こそ守ったが、肉体までは守れなかった。






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