21

 ベリルの執務室。デュカスが訪問しベリルに事情を話すと彼は当該の戦闘員を呼び出してくれた。とりあえず本人の意志を確かめようと。


「いいですよ。他の世界に行ってみたかったですし。ベリル王子の手伝いがやれるのなら本望です」


 呼び出された戦闘員クロムはそう答える。


 デュカスが言った。

「秘匿していたのにすみません」


「ああそれはべつに将来のためで……こうして結びつきましたからもういいです」


「というと?」とベリル。


「デュカス、俺の夢は退役後に──任期を終えて退役したあとにフェリルで再就職することなんです」


 少し驚くデュカス。「なんでまた」


「戦闘系に生まれたんです。本場に行ってこの目で確かめたい。雇ってください」


「それは両国に協定がないと実現しませんよ」


「いずれ協定は結ばれますよ」


「それにその頃の俺は違う立場にいると思います」


「王位委譲ですか? 失礼ながら夢物語ですよ。実現はしません」


「そうですか」


「ともかく俺のことは頭に入れといて下さい」


「本場と言われても……インディのレベルは俺から見ても遜色ないものですよ」


「いやあいつは超エリートなんであれを基準にして貰っては困ります。全体の平均値は比較になりません」


 ふうんと言いつつデュカスがベリルを見ると彼はあまりいい顔はしていなかった。いろいろ思うところはあるようだが、彼は黙っている。


 クロムがそのベリルに向かって述べた。


「戦闘に加わらないとはいえ行き先は戦場ですから用意してきます」


 クロムが部屋を出ていくと入れ替わるようにしてノックがあり、入ってきたのはサラであった。デュカスがどうした?と尋ねると「伝達事項がありまして。ベリルさん、書類戸棚に箱がありませんか?」と言う。


 ベリルが棚に行き、扉を開ける。そこには金属製の赤い物体が鎮座していた。赤い箱の上に貼られたポストイットを剥がして手に取り、それを読むと言った。


「俺宛だ。よろしくて書いてある。なんだこれは?」


「ああ、お前の番ってことだな。手紙が入ってるから読む係」


「読むだけでいいのか?」


「内容によっては参加するべきだね」


「ふうん」


 箱から手紙を取り出し、中身をあらためてから彼は読み始めた。


「では。追放刑というワードが度々出てきていますがちょっとよくわかりません。説明お願いします」


 デュカスが応える。


「王を葬ったために賢者会から下された罰だね。その裁定の際に“受け入れるが戻りたいときには戻ることを認めよ”と俺が訴えてこれは認められた。王族だからいろいろ仕事あるからね。ただし条件があって城と王宮は立ち入り禁止にされてる。他の場所なら大目に見るってことだね」


「で、それに関連した質問も来てる。──ノウエルという言葉が出てきてなんとなくこちらの世界なのだろうな、とは思うのですが正確なところを教えて下さい」


「追放刑で送られた世界が読者さんが暮らす世界で、魔法界ではそれをノウエルと呼んでます。俺が住んでいるのはニホンという国のフクオカという地域です。時計屋を経営してる方の家に居候しております。これはシュエルの国連本部とノウエルにある移民局との協議によって決められたと聞いてます」


「元々移民社会があるんだよな?」


「そう」


「いろいろ話が伝わってるぞ」


「そちらはファンタジーじゃなくなるからなあ。まあニーズがあればそちらの話も将来的にはあるかもしれません」


「次。ベリルさんが最初に現れた場面のあと、サラさんと国王とのやり取りのなかで“黒い羽根”について言及されています。でもこの羽根の描写は一切出てきません。なぜなのでしょうか。──これは俺だな。普段は背中に収納してる。日常生活で邪魔だから。戦闘でも邪魔でしかない」


「え? 空飛べるじゃないですか」とサラ。


「下から“縛”を使われるとおしまい」


「あ、墜落か」


「使うとしたら緊急で脱出する時だ」


「なんかパワーが上がるとかそういうのは」


「いや効率よくないのよ」


 デュカスが言った。


「いや“覚醒”する時には羽根を解放しなきゃならんだろ」


「そういうネタバレをここでするな」


「獣化と同じで秘密じゃないだろ」


「それとは全然違う。いわゆる獣化問題なんぞない」


 するとサラが問うた。

「獣化問題って?」


「知らんのか」


「まだその課程じゃないんです」


 デュカスが受け取って補足する。


「よその世界は知らんがフェリルだけでなくてシュエル・ロウ全体でも獣化の扱いは慎重だ。獣化なんて法力が安定する三十過ぎてからじゃないと危ない。理性が吹っ飛ぶ例があるんだから。危なくてしょうがないよ、訓練どころじゃなくなる」


「俺たちにそんなリスクはない。でもそこではなくて、そもそも獣化の必要があるのかってのが獣化問題。デュカスみたいなS級だと必要ないんだ。獣化せずにその力を内部で稼働できる」


「見た目的には効果あるし、リーチを得られる利点もある」とデュカス。


「っていう議論があるわけだ。加えて戦闘可能時間は短くなるから戦争には向いてないとも言える」


「まさにそこだ。回復だって遅くなる」


「ふうん」


「お前らいい機会だから言っとくけど俺たちを魔族って呼ぶのやめろよ」


「ああそれはすまんね」


「すみませんです」





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