第52話 嫌がらせこそ我が本分

 「嫌がらせ?」

 「ああ、敵が進むと予想される街道に嫌がらせの落とし穴やマキビシやら、石やら考えられる限りの嫌がらせを準備しておこうと思ってな」

 「そ、それはまた……」

 俺の話を聞いた幕僚の一人が冷や汗をかいて絶句している。

 「一生懸命逃げようとしてる先で、落とし穴やマキビシに引っかかったら悔しいだろう?大軍が動けなくなるほど大量に仕掛けてやろうかと」

 「ほかの皆には、その罠だらけの街道に敵を押し込める役目と残った補給部隊と物資を鹵獲して、戻ってくる敵軍との決戦に備えてもらいたいわけ」

 

 そうして、やってきた街道には、敵にばれないように集まってきている工兵部隊と胡蝶たちがいる。

 「しかし、何故胡蝶たち全員が付いてきてるの?」

 疑問を呈したエルフリードに対して、胡蝶の一人が楽しそうに答える。

 「だって嫌がらせですよね?」

 「うん」

 「おびき寄せるには美女や美少女が必要と相場は決まってるんです!」

 「でも殿下、楽しそうですね?」

 「楽しいよう。自分の仕掛けた罠に他人が引っかかるのって楽しくない?」

 「うわっ、子供のような無邪気な顔なんだけど、やろうとしてることがエグイ」

 「罠を張るって意外と難しいんだよ。お~い、こっちだ」

 「殿下、工兵隊一千揃いました」

 「では説明を始める。工兵隊の恐ろしさを反乱軍の連中に教えてやるぞ」

 そして始まる作戦会議なのだが……、エルフリードが演技付きで説明するものだからか、何故か全員が悪戯小僧のような笑みを浮かべて意気揚々と現場に散っていった。

 戦後、世界各国の軍事関係者が、あまりにも無慈悲で悪辣な罠を仕掛け、帝国の反乱軍を壊滅させた工兵隊に恐怖することになるが、味方からは作戦後、それはもう無邪気としか言えない笑顔を浮かべて帰ってきた姿を見て『悪戯小僧の工兵隊』と呼ばれるようになる。


 「良し、完成したな」

 エルフリードは額の汗を左手の甲で拭いながら、一面に仕掛けられた罠を眺めている。

 「殿下ぁ~、こ、これって嫌がらせのレベルなんですか?」

 胡蝶の一人が、仕掛けられた罠の数々を見て、冷や汗を浮かべながらエルフリードに尋ねる。

 「うん、嫌がらせだよな?どうして?」

 「だ、だって、ねぇ~」

 「「「「うん、うん」」」」

 「どう考えても、生きて逃す気ないでしょう?」

 「嫌がらせに引っかからなくても、後ろから押して引っかからせると……」

 「どうしよう。こんなあくどい殿下に惚れたら。もう逃げられないよ?」

 「確かに……」

 「ちょっ、みな酷くない?」

 「い、いや、だってねぇ。敵の逃走ルートまで考えて、その先々にまで永遠と罠を仕掛けてるんだもの。恋愛もまあ、似たようなものだし……」

 「殿下の性格が、モロに出てるとしか……」

 「よ~し、お前ら後で覚悟しておけよ。足腰立たなくなるまで相手してやるぞ」

 「「「「きゃあああああ、それはぜひともお願いしますね」」」」

 エルフリードは内心、これは俺の方が罠にはまったのか?と焦りだす。

 「はやまったかな?これは……」

 「「「もう遅いですよ~だ」」」

 やっぱりか……、と思うエルフリードだった。

 「くっ、罠にはめられた」

 「殿下!そろそろ移動しませんと」

 「分かった。それから罠の位置を記した地図を味方に伝えてくれ」

 「分かりました」

 「それじゃあ、始めようかね」

 エルフリードの呟きに、胡蝶たちの楽しそうな声が街道に溢れる。

 「「「「殿下ぁ~、顔!顔!あくど過ぎるって」」」


「公王閣下、エルフリーデン殿下より連絡です」

「『罠の設置を完了。何時でも始められたし』です。あと、罠が設置されている街道の地図です」

「うむ……、こ、これは、また、酷いな」

「敵を一人も逃がす気ないですね……」

「こういうと不遜ですが、味方にいらっしゃると楽しいお方ですが、敵には回したくないですなぁ……」

「うん、儂もそう思うわい。では皆の衆、帝国の反乱を終わらせるぞ」

「「「「おう」」」」

公国軍と帝国軍、王国軍の各諸将が各々の部隊に戻り、配置につく。

徐々に軍勢の戦機が高まっていくのを各諸将たちも感じている。

メレンテス平原からオルブライエン王国へと続く街道を中心に決戦の火ぶたが今まさに切られようとしていた。

 




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