第4話 隠し子、推測する 

 どうするべきか……。

 考えるまでもない。

 今のところ、王位継承権を持つもので無事なのは俺一人なのだから……。

 選択肢など存在しない。

 お袋の立場、婚約者候補、同盟国でぁる公国がどう動くのか、仮想敵国である帝国の動き、その他諸々の事柄の確認、俺の王太子教育、側近問題、挙げればいくらでも問題が出てくる。

 だが、王子として復権しないことにはどうにもならない。

 今のまま状況に流されるよりは、自ら決断し状況を自ら動かせるようになった方が動きやすいともいえる。

 最大の問題はシルフィスを思いっきり巻き込んでしまうことに心苦しさを覚える。

 今でこそシルフィスは俺の侍女的な立場にいるが、実際は違う。

 帝国によって滅ぼされた大国の王族で唯一生き残った忘れ形見であった。 

 時代が時代なら、俺より立場は上ということになる。

 帝国に国土を蹂躙されつつあるなか国を脱出したシルフィス達は、最初シルフィスを含めて30人程いた護衛や付き人は帝国の追っ手によって徐々にその数を減らし、王国へ到着した際には7人まで数を減らしていた。

 しかも無傷なものはなく、シルフィス自身も軽症とはいえ傷だらけだった。

 そんな彼女達を怪しい者たちがいるとの通報を領民から受けて駆け付けたのが、義父の領地巡察に付き添っていたこの俺と義父の護衛達だった。

 最初は何処からか逃げてきた奴隷かと思っていたが、身に着けていた装備などから何処かの高位貴族の可能性も拭いきれないことから丁重に保護した。

 傷の治療も終わり、暖かい食事も食し終わったころ事情聴取となりそこで判明したことだった。

 本人たちは、祖国奪還等は考えていないのでこのまま義父に士官させてくれないだろうかと懇願された。

 義父は迷っていたようだ。

 当然、国へ報告しなければならない事案だからだ。

 だが、義父は王国に報告することはせずに自分にではなく息子に仕えてほしいと逆に懇願した。

 困惑するシルフィス達に義父は俺の秘密を打ち明けたのだった。

 国王の隠し子と亡国の姫とその家臣たちの奇妙な関係が始まった瞬間だった。

 自分としては、ごく普通に友人としていてくれれば十分だったのだが、シルフィスは頑なに侍女に拘った。

 自分が生きているとなると迷惑がかかるからと。

 だから、友人としてではなく侍女の方が良いと、そうすれば常に一緒にいられるとも……。

 うん、一体どういう意味でいったんだろうね。

 シルフィスと一緒にいた騎士たちもその方が安心するからと賛成するしで、今に繋がっている。

 情報収集は主にシルフィスと自分に仕えてくれている騎士たちがしてくれているのだか、なかなかに優秀な人達だった。

 でも、今回の件では全く情報を得られていない。

 通常、人の口に門戸は立てられない。

 しかしながら、リスティング・ロスマイン侯爵令嬢とティリアーヌ・ストロガベル辺境伯令嬢に関しては完璧といえるほど門戸が硬い。

 何故だ?

 口が堅くなるのは、情報を漏らした場合命にかかわってくるからだ。

 だが、本来表に出したくない情報であろう『不貞行為をした』は表に出ている。

 しかし、内容になると口を閉ざす。

 口を閉ざすのは、不貞行為の内容を知らないからか?

 「ねえ、シルフィス、リスティング・ロスマイン侯爵令嬢とティリアーヌ・ストロガベル辺境伯令嬢が不貞行為をしたっていう噂とグリースト第二王子とウィルベルガ第三王子の女性スキャンダルの噂、何時ごろ出た話?」

 「えっと、確か二ヶ月半少し前、ほぼ同じ時期に出てきたようですよ」

 シルフィスは何をいまさらという顔で答えた。

 「同時期? ご令嬢方の噂は男性から出たの? 女性側から?」

 「女性側からですね」

 「じゃあ、王子達の女性スキャンダルは、男性から? 女性から?」

 「男性からですね」

 「シルフィス、リスティング・ロスマイン侯爵令嬢とティリアーヌ・ストロガベル辺境伯令嬢が不貞行為をしたという噂は別々? それとも同時?」

 「同時です」

 「同時!? てことはリスティング嬢とティリアーヌ嬢が一緒にいて、不貞行為をしていたのを女性に見られた? グリースト第二王子とウィルベルガ第三王子は噂が出始めたときの仲はどうだった?」

 「あまりよくはなかったはずです。 お互い王太子になるためにかなりギスギスしていたとの話もあります」

 「仲が良くなかったのに、こちらも同時に女性スキャンダルね……。」

 何だろうこの不自然さは……。

 4人の噂が出るタイミングがほぼ同じ時期?

 不貞行為にしても、女性スキャンダルにしても相手方がいるはず。

 それが出てこないということは、秘密裏に処分したか?

 いやいや、処分したとしてもいなくなれば疑惑の目を向けられる。

 と、いうことは自主的にいなくなったとみる方が良い。

 「この噂が出た後、しばらくして王立学校からいなくなった教職員や学校関係者、男子学生と女子学生が何人か、いや、もっといたんじゃない? しかも今は所在不明のさ」

 「はい、教師が男性で2名、事務員が女性で1名、男子学生が全学年で9名、女子学生が多くて全学年で14名が消えてますね」

 「となると、『不貞行為をした』のではなく『不貞行為を見せられた』ということかな……。 で、不貞行為をしていたのが二人の王子と男子学生達と女子学生達。 教師や事務員も参加してたのかな? あと下級貴族の女子学生が数人というところかな」

 「それって、どういうことですか?」

 シルフィスが訳が分からないと横に首をひねりながら訪ねてくる。

 『あくまで僕の推測だよ。 令嬢二人と王子二人の噂が同時に流されたんだよね。 それっておかしくない?」

 「おかしいですか?」

 「噂って言うのは、本来バラバラに出るものなんだよね。 それが同時に出てる。  

 まるで作為的にね」

 「そして、仲の悪い王子二人を呼び出せるのは、王立学校の教師だけだよ」

 「でも、そんなことをしていったいなにがしたかったんでしょう?」

 「それはもちろん、王子二人の求心力低下もしくは廃嫡、王国重鎮二人の王国、ひいては王室への不信感を植え付けること」

 「二人の教師がそれぞれ理由を付けて王子二人を呼び出して薬を盛る。 

 そして準備しておいた同じく薬を盛られた下級貴族の女子学生数人と教師二人の息のかかった男子学生と女子学生達が一つの部屋に集まってとあることを始める。 

 女性事務員は事前にリスティング嬢とティリアーヌ嬢に放課後二人でとあることが行われているとは隠して部屋へ行くようにと教師から言付けされたと伝える。 

 そして二人が部屋に入ると待ち構えていた女子学生に押さえ付けられて、見たくもないものを見せつけられる。 

 下級貴族とはいえ本物の令嬢もいるからね。 

 信憑性はあがる。 

 そして、かなり時間が経ってから押さえ付けられたご令嬢二人の制服を少し派手目にはだけさせて、男子学生が親し気にしながらご令嬢二人と部屋から出れば、令嬢二人が不貞な行為をしていたっていう噂は完成さ。 王子二人についても証言者である下級貴族の女子学生がいる以上どうにもならないし、リスティング嬢とティリアーヌ嬢の証言もある。 

 その他の関係者は噂をばら撒いて、消えてしまっている。 

 まあ、リスティング嬢とティリアーヌ嬢を実際にどうしたのかは悪魔の証明だよ。 

 多分、平民に落とされた男爵令嬢はこの件に絡んでるんじゃないかな。 

 なんてたって二人の王子を誘惑したから領地没収に爵位剥奪なんだからさ」

 「因みに王子お二人や令嬢たちに使われた薬とは?」

 「ええ!? き、聞きますか? それを」

 自分の顔が赤くなるのが解る。

 シルフィスは時々こうやって天然ぶりを発揮する。

 俺の顔が赤くなるのを見て、怪訝そうに見る。

 まだわからないのかよぉ。

 「媚薬だよ(ボソッ)」

 「え?」

 「媚薬だよ!」

 薬が何なのか、やっとわかってシルフィスの顔はボンッと音を立てて真っ赤になった。

 『とあること』とせっかく暈かして話していたのに台無しである。

 俺の方が恥ずかしいからな。

 まあ、本当のところは本人たちに聞いて確認してみないことにはわからないけどな。

 これはシルフィスにも対策がひつようだろうな。

 同じような手段で来るとは限らないが、シルフィスに手を出してくるのはまず間違いないだろうし。

 それはさておき、まずはシルフィスに謝っておくべきだろうな。

 「シルフィス」

 「はい、なんですか?」

 「すまん、こんなことに巻き込んでしま・・・・・・」

 シルフィスに向かって頭を下げ謝罪を続けようとすると、唇にシルフィスの人差し指がそっと添えられる。

 「これも運命というものですよ。 いつまでも逃げ回るなということなのでしょう」

 少し悲しそうな声でシルフィスは答えるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る