第18話 隠し子、過去の出来事を知る②
ハルクルイードは、ルビアートがミレンダ嬢とメルクルイーダ王女に最近様子がおかしい、何か悩み事があるなら相談してほしいと話しているのをただ遠くから見ていた。
やがて、ハルクルイードは気が付いてしまった。
ああ、そういうことだったのか……。
ミレンダ嬢とメルクルイーダ王女が浮かべるあの表情は、ルビアートに恋する令嬢達の表情と同じじゃないか……。
ミレンダもメルクルイーダもルビアートに恋をしていたんだ……。
だから、僕がどんなに相談に乗ろうとしても応じるはずがない。
彼女たちにとって僕は、ルビアートに近寄るのを妨げる邪魔者でしかないのだから。
結局、婚約者の心までルビアートに奪われるのか……。
どうしてだ、どうしてだよ、ルビアート!
お前には、エルメデスっていう婚約者がいるじゃないか!
なのに、どうして僕の婚約者まで奪っていくんだ!
「ルビアート様に近づくのを邪魔するほんと空気の読めない人よね」
頭の中に木霊する、令嬢達の僕を侮蔑する言葉。
「どうしてあんな男がルビアート様の親友なのかしら」
「あら、あれでも一応王太子なんだから」
「ルビアート様が御優しいから、ご友人でいて差し上げてるんですわ、きっと」
くすくすくすくすくすくすくすくす……。
やめろ! 笑うな! そんなこと言うな! あいつは大切な親友なんだ!
お前にとっては大切な親友なんだろうが、あいつにとってはお前は本当に大切な親友なのか?
ハルクルイードの心の中で、闇が広がっていく……。
あいつは、いつもお前の好きになる女の心を奪っていく。
それでいながら、何の罪悪感も抱かない。
それにあいつがいるから、お前は令嬢達から馬鹿にされるんだ。
ほら、見てみろよ。
あんな笑顔をお前に見せたことがあるか?
ミレンダもメルクルイーダもどうせ心の中ではお前を嘲笑ってるに違いないんだ。
ルビアードだって、本当はお前のことを嘲笑っているんだ。
さあ、ルビアードに思い知られてやれよ。
奪い取ってやれよ、何もかもを。
そして悔しがらせてやれ。
大切なものが奪われ、穢される様を見せつけてやれよ。
ああ、そうだな。
思い知らせてやる。
ハルクルイードの顔から表情が感情が抜け堕ちていく。
そこにはルビアートとミレンダとメルクルイーダを冷たい眼で見る心の壊れたハルクルイードがいるだけであった。
それからのハルクルイードは、ミレンダとメルクルイーダを冷たい眼で見るようになった。
話しかければごく普通に話すし笑顔も見せる、冗談も言う。
しかし、目が笑っていないのだ。
それが二人を怖がらせた。
実際、ハルクルイードは婚約者であるミレンダに対しては冷たい眼を向けるばかりではなくきつく当たるようになっていた。
ミレンダは何故ハルクルイードが自分を冷たい眼を向けるのか、またきつく当たるのか判らなかった。
自分のルビアートに対する恋心はハルクルイードに気が付かれてはいないはず……。
だってあの人は……。
ミレンダのそういう感情は、心の壊れたハルクルイードにしてみれば手を取るように判るのだから。
心の壊れてからのハルクルイードは、それまでの人当たりの良さや気弱な雰囲気が鳴りを潜め、カミソリのような冷たい雰囲気を醸し出すようになっていた。
王太子殿下がいよいよ自覚を持たれたようで、これで王国の未来は安心であると王宮に勤める貴族たちは噂するほどの変わりようだったという。
ハルクルイードとミレンダは王立学園卒業と同時に結婚式を挙げたが、その頃になるとミレンダはハルクルイードに対して怯えた態度を示すようになり、寝込むことが多くなった。
一方、メルクルイーダはハルクルイードに怯えた態度を示すようになったミレンダを心配していた。
政略結婚とはいえ、兄ハルクルイードとミレンダは仲睦まじかった。
ただ、ミレンダがルビアートに恋をしてからはぎくしゃくしていた。
それがある時から徐々にだが、ミレンダがハルクルイードに対して怯えを見せるようになった。
それだけではない。
王立学園在籍中は、すこぶる健康体であったミレンダが結婚後、病に臥すようになったのだ。
結婚前から、メルクルイーダとミレンダに対して冷たい眼を向けるようになったハルクルイードが怖かった。
でも怯えるほどではなかったはずだ。
一体何があったのだろう。
そう疑問に思ったメルクルイーダが夜遅く密かに連絡を取り、ミレンダの私室を訪れたとき、メルクルイーダとミレンダの運命は決まった。
決まってしまった。
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