第16話 隠し子、仮説を立てる。

 もし、アルフリードが王家の血を引いていないとするならば?

 そして、もしアリスティア嬢がランカスター公爵の血を引いていないとするならば?

 可能性はあるのか?

 可能性があるとすれば、王家にエルメデス嬢が拉致された段階ですでに妊娠していたという可能性。

 そうなると当然父親は……、ランカスター公爵だ。

 アルフリードは、ランカスター公爵家の嫡男ということになる。

 また、メルクルイーダ王女がランカスター公爵家に降家した際に妊娠していたとする可能性。

 そうなるとアリスティアの父親は誰だ?

 王族の誰かか?

 あの当時の王族の男子は、二人しかいない。

 前国王と現国王ハルクルイード。

 前国王は当時、高齢だったと聞く(男性としての機能があるかは不明だよな)。

 となると現国王ハルクルイードが父親か?

 兄妹でかよ。

 いや、無理矢理関係を持たされたか。

 まあ、考えられなくもないか?

 俺の母親も権力にものを言わせて、無理矢理夜伽の相手を何回もさせた前科があるからな。

 病弱だった前王太子妃殿下とできなくて溜まってたってか。

 落ち着け、俺よ。

 前王太子妃殿下が病弱だったというのは、あくまで公式見解とされるもので、それが事実であるとは限らない。

 ねつ造されている可能性だってある。

 ああ、まてまて、思考が広がり過ぎだ。

 今は取り敢えずアルフリードの死について考えろ。

 アルフリードは王家の血を引いていないと仮定して、自分の血を王家の血を引いていない子供をハルクルイード王はどう思うか?

 自分の血を王家の血を引くアリスティア。

 存在は隠されていたが、ハルクルイード王の王家の血を引く俺、エルフリーデン。

 う~ん、まだ何かが足らないんだよなぁ。

 どうして、王家はオーギュストーン公爵家令嬢エルメデスを拉致した?

 正妃に相応しいから?

 理由が弱いな……。

 「ねえ、ロミー、エリー、リリー、シル、ちょっと質問があるんだけどいいかな?」

 そう、最近では四人の令嬢を愛称で呼んでいる。

 と、いうか、そう呼んでほしいとお願いされた。

 名前で呼んでいたのだが、他人行儀で嫌だと言われた。

 「「「「何ですか? エル様」」」」

 で、四人は俺のことをエルと呼んでいる。

 「他人の大切にしている人を無理矢理自分のものにするという行動の根幹にある一番強い感情って何だろう?」

 「「「「えっ!?」」」」

 「エル様は、何方から女性を奪い取りたいんですの!?」

 「わ、わたくしたちがいるじゃないですか! 私達じゃダメですか?」

 「私じゃ、子供っぽいから飽きられたのですか?」

 「えっと・・・・・・、どうしたの3人とも?」

 「エル様……。 なんて質問をされているんですか? 略奪ですか? 今度は略奪なんですね。 相手は誰なんです? 正直に答えてくれたらお説教で許してあげますよ?」

 「えっと、みんな少し落ち着こうよ。 ねっ」

 ……。

 ふう~、大変な目にあった。

 でも、収穫はあった。

 その人が欲しい、自分のものにしたいという欲求。

 奪われた相手に対する優越感等々……。

 確認を取ってみないとわからないが、ハルクルイード国王とランカスター公爵との間には何らかの確執がある。

 だから自分の正妃が亡くなった事実を利用して、オーギュストーン公爵家令嬢エルメデスをランカスター公爵から奪うことで相手に対して優越感に浸ることができた。

 しかも、エルメデス正妃が妊娠した。

 ハルクルイード国王は歓喜したことだろう。

 ランカスター公爵が大切にしていた最愛の人を、横取りして自分の子供を妊娠させたのだ。

 オーギュストーン公爵としては、国王とはいえ自分の娘を穢されたうえに人質とされたのだからどうすることもできない。

 だから、オーギュストーン公爵家は政治的に軍事的にも表舞台には立たなくなった。

 そうすることで娘と領地領民を守りながら、ハルクルイード国王に対する精一杯の抵抗であり、抗議だったのだろう。

 エルメデス正妃にしてもハルクルイード国王に従わなければ、オーギュストーン公爵家やランカスター公爵家がどうなるかわからない以上、抗うことは難しかっただろう。

 ただ、生まれてきた子供はランカスター公爵とオーギュストーン公爵令嬢エルメデスとの子供だった。

 その事実を知ったのはいったい何時だったのだろう。

 ランカスター公爵からエルメデス嬢を奪い、今度は長女であるアリスティア嬢をアルフリード王太子の妻として奪う。

 ランカスター公爵は王命ゆえ逆らうことができない。

 また、エルメデス正妃を守るためにも従わざるを得ない。

 その心情たるや計り知れないものであったであろうが、ハルクルイード国王にとってはこれほど自尊心を満たし、優越感に浸れる喜びはなかったはずである。

 その全てが覆ったのだ。

 その怒りはどれほどのものであったであろう。

 だからといって、エルメデス正妃を害するわけにはいかない。

 オーギュストーン公爵家とランカスター公爵家に対する重要な人質だ。

 だったら、その怒りがどこに向く?

 ハルクルイード国王の怒りはアルフリードに向かうことになる。

 しかもアルフリードを殺すことで、自分の怒りもおさまり、ランカスター公爵やエルメデス正妃に対してこの上ない仕打ちとなるからだ。

 そして起こったのが、全ての事件の発端となるアルフリード王太子暗殺事件なのではないのだろうか。

 「ロミー、エリー、リリー、申し訳ないけど近いうちに君たちのお父上と話がしたいんだけど、都合の良い日を聞いて来てくれるかい? できれば、それぞれの邸宅でお会いしたいんだけど……」

 「つ、ついに婚約してくださるのですか?」

 「きゃあ~、それでしたらすぐにでも!」

 「う、うれしいです」

 「あっ、違うから、勘違いしないで」

 「流石はエルフリード様、天然の女誑しですね」

 「シルも何言ってるの? そんなんじゃないからね」

 そして部屋がワイワイ騒がしくなって、三令嬢を落ち着かせるのに一苦労するエルフリーデンであった。

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