第15話 隠し子、疑惑にたどり着く

 意識が暗闇の底から浮き上がってくるような感覚。

 目を薄く開けると、そこは自分に割り当てられた離宮の部屋のベットの上だった。

 部屋が結構明るいところをみると、もう昼過ぎあたりか?

 目が覚める直前まで何をしていたんだっけか?

 確か、屋敷でドジを踏んで脱出口にたどり着く前に屋敷が崩れ始めて、無我夢中で脱出口に飛び込んだまでは良かったんだけど、その先が階段で転げ落ちて、どこかの骨が折れる音が聞こえて、床に叩きつけられて……。

 うん、良く生きてたな。

 石の階段じゃなくて、木の階段だったのが良かったのかな?

 まあ、それでも打ち所が悪かったら、死んでるわ。

 しかし、どうして離宮の自分の部屋にいるんだ?

 あれから何日経ったんだ?

 取り敢えず、身体を……。

 いってぇぇぇぇぇ、身体が凄く痛い。

 痛みに耐えるために全身に力を入れるんだけど、それで更に

激痛に襲われた。

 「ぐうぅぅ……」

 思わず漏れた呻き声が洩れた。

 「エル! エル! 意識が戻ったの?」

 シルフィスがベットに駆け寄ってきて、俺の顔を覗き込む。

 少しやつれた顔のシルフィスが俺の視界に入る。

 「おはよう、シルフィス。 ところであれから何日経ってるのかな? それと身体がとっても痛い……」

 「当り前です。 階段から転げ落ちたんですよ。 全身打撲の上、左腕は骨折してました。 それから、あれからは5日経ってます」

 「えっ? そんなに寝てたの?」

 「全治3ヵ月の重症です」

 全治3ヵ月の重症か、意外に時間がかかりそうだな……。

 シルフィスに聞いた話によると、屋敷が炎に包まれているにもかかわらず、一向に姿を現さない俺を心配した部下たち数人が、脱出口から侵入して通路に倒れている俺を発見し、取り敢えず離宮に運び込んで医者に見せたということらしい。

 目が覚めるまでの間に、ロミティエ嬢、エリスティング嬢、リリアーシュ嬢が俺の怪我を聞きつけて駆け付けてくれたらしい。

 今では、離宮内にそれぞれの部屋が用意され、侍女たちや護衛の騎士達も常駐しているらしい。

 あれ?

 寝てたの5日間ですよね?

 令嬢達の行動、早くありませんか?

 てか、怯えてたはずなんですけど?

 婚約もしてないのに、未婚の若い女性が男性が住む離宮に同居って、よく親御さんたちが許したよな……。

 なんだか、お三方の顔を見るのが怖いな。

 まあ、そんなこんなでベットの上から動けないので、シルフィスをはじめとしてロミティエ嬢、エリスティング嬢、リリアーシュ嬢の4人に世話を焼かれている。

 でも、やることがないとどうしても『アルフリードの死』について考えてしまう。

 それからしばらく経ったある日、やっとベッドに起き上がれるようになり、シルフィスや三人の令嬢と共に歓談しているとランカスター公爵が昔、エルメデス正妃殿下と恋仲だったという話が出てきた。

 だが、現在は皆が知っての通りハルクルイード陛下の正妃に納まっている。

 詳しく話を聞くと、現国王ハルクルイード陛下がまだ王太子であったころに結婚した王太子妃殿下は身体が弱く、世継ぎを産むことなく亡くなってっしまったのだ。

 この事態に王家は急ぎ次の正妃を迎えなければならなかった。

 その時白羽の矢が立ったのがオーギュストーン公爵家令嬢エルメデスであった。

 だが、ランカスター公爵とエルメデス嬢は既に結婚の秒読み段階に入っており、王家からの要請に難色を示していた。

 ここで王家は暴挙に出る。

 ランカスター公爵が外出中に留守を守っていたエルメデス嬢を無理矢理王城の離宮に連れ去ったのである。

 ランカスター公爵家、オーギュストーン公爵家の両家は、王家に対して猛烈に抗議をするが、数日もするとオーギュストーン公爵家が突然抗議を取り下げた。

 理由は不明だが、王家とオーギュストーン公爵家との間で裏取引があったと噂される。

 しかしながら、現王国においてオーギュストーン公爵家は政治的にも軍事的にも一切表には出てきていない。

 ただひっそりとなりを潜めてしまっている。

 ランカスター公爵家もオーギュストーン公爵家が抗議を取り下げてしまってはどうすることもできず、泣く泣くランカスター公爵とエルメデス嬢の婚約を解消せざるを得なかったといわれる。

 話を聞く限り、本当にこの国大丈夫か?

 当時、帝国がいつ攻めてくるかわからない緊迫した政治状況だったとしてもだ、公爵家の婚約者を略奪同然に正妃にするという思考が訳わからん。

 その後時を置かず、王家からランカスター公爵家にハルクルイードの妹であるメルクルイーダ王女が降家することになる。

 はぁ? なにそのタイトなタイムスケジュールは……。

 じゃあなに、アルフリードとアリスティアと俺が同級生って物凄い確率じゃないか?

 何だか運命を感じるなぁ。

 そんな風に少し現実逃避にも似た思いにとらわれていると、頭に疑問がよぎるのだった。

 まさか、そんなことはあるまい。

 しかし、人の感情がすぐに変わり得るものなのだろうか……。

 自分の恋人を奪った王家から嫁入りしてくる女性をすぐに愛せるものだろうか?

 逆に、恋人のもとから引き離され無理矢理に国王と結婚させられる女性は、国王を愛せるものなのだろうか?

 でも、完全に否定し切れない疑い。

 もしかしたら、アルフリードは王家の血を引いていないのか?

 そして、もしかしたらアリスティア嬢はランカスター公爵の血を引いていない?

 そんな疑惑が俺の中に膨れ上がっていくのであった。

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