第14話 隠し子、燃え落ちる屋敷と共に(改稿第二版)

 王都郊外の寂れた屋敷の2階、屋敷の正面が良く見える廊下で俺は窓枠に座り外の様子を探りながらワインボトルから直接ワインを飲んでいた。

 あのお茶会から始まった報復は、二日前に行われたリッテンガルシュ公爵家の襲撃を以て全て終わった。

 随分と時間がかかったものだ。

 部下たちは王都にある屋敷にて襲撃で押収したものや証拠物の見分をして、報告書を作成していることだろう。

 そんな中、俺は今回の一連の報復の後始末をするためにここにいる。

 一連の報復は、表向き盗賊団の仕業ということにしてある。

 ルークセイン王国を荒しまわり、襲われれば皆殺しにされる凶悪な盗賊団。

 今まで誰一人として捕まえることができなかった盗賊団のアジトが、地道な捜査の結果、やっと発見される。

 王国の威信をかけて、この盗賊団を壊滅させなければならない。

 そして今夜、兵を率いてこの屋敷にやってくる。

 兵士達が盗賊団壊滅のために屋敷の敷地に入ると同時に屋敷から火が出る。

 屋敷が燃え上がる中、兵士達は盗賊団を捕まえようと努力するが、屋敷が崩落して結局捕縛できなかったが、首領と仲間と思われる男達の焼死体が十数体見付かり、これをもって盗賊団を壊滅なさしめたとして、国中に喧伝される運びとなっている。

 死体は、死刑囚の死体を用意して、すでに各部屋や廊下に配置してある。

 屋敷にも油を撒いてあるから、タイミングよく火を付ければよく、脱出路の用意もしてある。

 再びワインのボトルをあおると、口の中から鼻にかけて芳醇なワインの香りが抜けていく。

 結局のところ、アリスティア嬢、リスティング嬢、ティリアーヌ嬢の死に関わった連中は死んだわけだが、どうしても一つだけ疑問が残った。

 事の発端となったアルフリードの死だ。

 毒殺と言われているが、誰がどうやって毒を飲ませたのかはっきりしないのだ。

 それに今回の関係者の中にアルフリード暗殺に繋がる犯人を見つけることができなかった。

 アルフリードが死んだのは王宮内だ。

 だが、王宮から姿を消したものは一人もいない。

 考え方を変えよう。

 毒によってアルフリードは死んだ。

 ということは、自殺と他殺の二通りが考えられる。

 ここで問題となるのが、自殺する理由と殺される理由だ。

 何だか引っ掛かるんだよなぁ~。

 思考の海を漂っていた俺は、屋敷の外が騒がしいことに気が付いた。

 「やべ! 屋敷に火を放つタイミングが……」

 完全に失敗した。

 本来なら、すでに火を放っておかなければならないタイミングだ。

 兵士達が、屋敷の扉に取りついて破ろうとしていた。

 屋敷の玄関や窓などは、内側から厚い板で補強した上に石材で補強してあるからそう簡単には入り込めないようにしてある。

 急いで、屋敷に火を放って脱出しないと……。

 「ああ、ダメだ。 このままだと火の回りが遅い」

 俺は慌てて、玄関ホールに行き直接油に火を付けて回る。

 屋敷の1階部分で7か所、2階部分で5か所に火を放てば、屋敷は一気に火に包まれる。

 兵士達が火事に気が付いて、慌てふためく声が聞こえる。

 これで後は、自分がこの屋敷から脱出すればいいんだけど……。

 脱出口に続く通路は、すでに業火に包まれている。

 「無関係な使用人たちまで多く殺したからなぁ、お前もこっちに来いってことなのかな? どうしたものか……」

 屋敷のあちこちから、ベキベキと異音がしてくる。

 早く脱出しないと屋敷が崩れてきそうだ。

 ええい、なるようになれ。

 俺は、業火に包まれた通路に向かって走り出した。

 あと少し!

 あと、ほんの少しだけ持ってくれよ。

 あの先に脱出口が!

 そう思った瞬間、ガコンバキバキっという音と共に俺の頭の上から燃え盛る屋敷の建材が崩れ落ちて、降り注いできたのだった。

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