第13話 隠し子、帝国に血塗られた報復を

  メビルホウッディー商会がルークセイン王国で活動するための隠れ蓑であるルサス商会とジャルハール商会の二つの商会は、ここ最近、商隊を凶悪な盗賊団に襲撃され続けて、仕入れも販売もできなくなってきていた。

 商会に勤める従業員も襲撃により殺されたり、襲われることを恐れて辞めてしまったりで、このままでは両商会とも立ち行かなくなるところまで来ていた。

 勿論、傭兵団に偽装した帝国兵による護衛もしてもらったが全く効果がなかった。

 その挙句、商会とその倉庫が襲われ、商会の会頭とその家族、従業員の大半が殺され、金貨や品物が大量に盗まれるという事件が起こった。

 しかも、その盗賊団は商会の会頭宅や商会店舗、倉庫に火を放つ極悪ぶりだった。

 この事件後、事態を重く見た王国軍が盗賊団壊滅に乗り出したが、一向に捕まることはなかった。

 逆にルサス商会とジャルハール商会がルークセイン王国内で違法な薬物販売や人身売買などに手を染めていたという証拠が出てくるなどしたため、市井では盗賊団がまるで英雄であるかのように噂されるようになって、思うように捜査できなくなってしまったのである。

 同じ頃、帝国国内では 違法薬物が貴族や平民などの間に急速に広まり、中毒者が蔓延しだした。

 治安が悪化し、経済活動にも悪影響が出始め、関係各所は対策に苦慮していた。

 ルークセイン王国はこの違法薬物が自国内に入りこむことを防ぐため、国境警備軍の増強を帝国に通知した。

 その際、違法な薬物を販売していたルサス商会とジャルハール商会の両商会と繋がりのあるメビルホウッディー商会が違法薬物を売り捌いているのではないかという疑義も伝えたのだった。

 その後、メビルホウッディー商会の倉庫において、違法薬物が大量に見つかったということから、メビルホウッディー商会は帝国の治安当局によって潰されることとなった。

 勿論、メビルホウッディー商会の会頭家族も従業員も連座制で絞首刑となった。

 さてと、帝国に対する報復はこれくらいにしておくか。

 ルサス商会とジャルハール商会を襲撃した際に、薬の現物と製造方法、賄賂を送る貴族家への指示書などなど、本当に色々と手に入れることができた。

 薬の現物と製造方法は、治療法の確立と治療薬の開発に大いに役に立った。

 手元に残った違法薬物は一部をメビルホウッディー商会の倉庫へ、その他は帝国の裏社会へと流した。

 帝国の裏社会は何もメビルホウッディー商会が牛耳っているわけではない。

 裏社会でも特に名の通った大きな組織には違法薬物の製造方法も売った。

 メビルホウッディー商会を潰しても、違法薬物の出処は複数になっているから撲滅は難しいだろう。

 まあ、諸刃の剣ではあるが、違法薬物の流入に気を付ければ被害は最小限に防げる。

 治療方法も解毒治療薬もすでに出来上がっているしね。

 ルサス商会とジャルハール商会を襲撃した際と裏社会でも特に名の通った大きな 組織には違法薬物の製造方法を売った際に得た莫大な量の金貨は、被害者である女子学生に対して慰謝料と治療費ということで、亡くなった女子学生の家族には、弔慰金として少なくない額を送った。

 勿論、ロスマイン侯爵家とストロガベル辺境伯家にもだ。

 後は、リッテンガルシュ公爵家とルークセイン王国を裏切り帝国に与している貴族どもを始末すれば、血塗れの報復も終わる。

 と、その前にルークセイン王国の二つの商会を潰し、多く貴族を殺した『凶悪な盗賊団』の屋敷を準備しないとな。

 このまま犯罪者集団が捕まらなかったなんてことになったら、この国の治安担当者の面子が丸潰れだ。

 国内の治安も悪くなるから、そうならないようにしないといけない。

 「シルフィス、帝国の方はこれでいいよ。 あとは王都の貧民街に部屋を数か所と、王都外に少し大きめな屋敷を準備してくれる? その上で部下たちの何人かで頻繁にその屋敷に出入りをして、あたかもそこが凶悪な盗賊団の拠点であるかのように偽装してほしいんだ。 悪党はせいぜい派手に消えないとね」

 「また、危ないことしようとしてますよね?」

 「稀代の盗賊団の頭領は、燃え盛る屋敷と共に消え去るのみってね。 勿論、脱出口も確保しておくけどさ。 報復のためとは言え、あんなに無関係の人間まで巻き込んで、これからも巻き込んでやるんだから、俺一人ぐらいはねって」

 「ダメです。 ダメに決まってるでしょう。 何言ってるんですか」

 シルフィスの少し怒った顔が何というか、まだ、ここにいていいんだと思わせてくれる。

 さてと、最後の獲物たちを嬲り殺しに行くとしますかね。

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